第11章 揺れる警視庁1200万人の人質
佐藤は感情に任せて男を追い詰める。やがて、廃ビルが多い地域へ男を追い詰めた。男は佐藤の剣幕にビビったのか、青白い顔で命乞いをした。
「ま、待て、俺じゃないんだ……ほ、ホラ……よくあるだろ?頭の中で子供の声がしたんだよ……。け、警察を殺せって……い、いや誰でもいいから殺せって……そ、そうさ……だから俺のせいじゃ……」
必死にそう言う男に、佐藤は涙を浮かべた。頭の中に浮かぶのは松田の顔。
(こんな奴に……こんな奴に……こんな奴に!!!)
うああああ、と叫んで拳銃を発砲する。男に向けて、男を殺すつもりで撃った弾は、男に当たることはなかった。
間一髪、高木が佐藤を庇ったのだ。弾丸は男の横顔スレスレに撃ち込まれ、男は恐怖からか気絶した。
「な、何やってんですか……い、いつも佐藤さんが言ってるでしょ……誇りと使命感を持って国家と国民に奉仕し、恐れや憎しみに囚われずに、いかなる場合も人権を尊重して公正に警察職務を執行しろって……」
走ってきたのか、高木の息は少し上がっている上に、11月だというのに、じんわり汗もかいている。
佐藤は涙を拭きながら「だって、だって……」と駄々をこねる子供のように言った。高木はそんな佐藤を見て、困ったように笑う。
「そんなんじゃ松田刑事に怒られちゃいますよ……」
佐藤はまた、涙を溜めた目で高木を見上げた。
「忘れさせてよ〜〜!! バカ〜!!」
高木は悲しそうな表情を浮かべて言った。
「ダメですよ忘れちゃ……。それが大切な思い出なら忘れちゃダメです……。人は死んだら、人の思い出の中でしか生きられないんですから……」
その言葉は、3年前に松田が言った言葉と似ていた。
佐藤の中で、既に松田よりも大きな存在となっていた高木。佐藤は彼の両頬に手を添え、口付けをしようとした。だが──
「何だ今の銃声は!?」
ギリギリの所で目暮警部が来てしまい、それはお預けとなった……。