第10章 シカゴから来た男──P&A
「瀬里奈さんお疲れ様でした!急にすみませんでした」
梓さんが頭を下げた。
──結局、私は閉店までシフトに入り、片付けまでした。終わったのは夜もかなり遅い頃だ。
「いえ、急病じゃ仕方ないですし。それに今日は忙しかったから、その分お給料はずむでしょ?」
そう言って笑うと、梓さんは「それはマスターに聞かないと」と笑ってくれた。
「じゃあ私はこれで。お疲れ様でしたー」
「お疲れ様でーす」
梓さんが先にポアロを出る。明日は開店から昼過ぎまでのシフトだから、私が鍵当番だ。
「豆もOK、っと……」
最後に食材の在庫を確認して、私は裏口から出て鍵をカチャリと閉めた。
「ドアの鍵も南京錠もOK!よし、かーえろっと」
私はひとりごちて家路を辿った。ポアロまでは歩いて来れる距離のため、車での通勤はしていない。
……そういえば最近、女の人が襲われる事件多いんだよね……。
私はふとそんなことを思い出し、背筋がぞくりとした。
「あーヤダヤダ。早く帰ろっ」
頭に浮かんだ恐ろしい想像を振り切るかのように、私は急いで家路につく──はずだったのに。
キッとブレーキ音を鳴らして、私の前に車が停まった。
「!!?」
「やぁ、久しぶりだな瀬里奈。バスジャックの事件以来か?」
知ってる、この声は──
「……赤井さん?」
私が怪訝にそう言うと、赤井さんは少し嬉しそうに笑った。
「何だ、覚えてるじゃないか。君に会わせたい人達がいるんだ、車に乗ってくれ」
そう言いながら赤井さんはシボレーの助手席を指す。私はしかめ面で言った。
「……私、明日も朝早いんですけど?」
「少しだけだ。──早く乗らないと朝までここで立ち往生する羽目になるんだが?」
私ははぁー、と大きくため息をついた。そして半ば諦めたように助手席のドアを開け、車に乗り込んだ。