第2章 スコッチ
長髪の男が念入りに男を縛り上げている間に、色黒の青年と薄い顎髭の男が私に近づいて来た。
「大丈夫かい?」
顎髭の男が話しかける。私はこくりと頷いた。
「助けてくれて……ありがとうございました」
一応お礼を言うと、色黒の青年が私の頭を撫でながら答えた。
「君が無事でよかったよ。──いや、無傷ではないか」
「え?」
きょとんとすると、そばにいた顎髭の男が苦笑いしながら自分の首と頬を指でとんとん、と叩いた。
不思議に思いながらも叩いていたところを触れると、まだ乾ききっていなかったらしい血が指についた。ハッと気づいた蘭ちゃんが慌てて絆創膏を出そうとするが、それよりも早く長髪の男が戻って来て私に絆創膏を2枚くれた。
「使うといい」
「あ……ありがとうございます」
私は差し出してくれた絆創膏をありがたく受け取った。
「女性が顔に傷をつけたなんて大変ですからね」
「これに懲りたらもう無茶はしない方がいい」
色黒の青年と薄い顎髭の男が笑いながら話した。
私は困ったように笑い、「……善処します」とだけ言った。どうせ無茶するなと言われても自分で止められはしない。頭で考えるよりも先に体が動いているタイプなのだから。
じゃあこれで、と去ろうとする男たちに私は尋ねた。
「あの、──名前、とか」
3人は少し驚いたような顔をしたが、やがて色黒の青年が言った。
「君にとっての正義のヒーローとでも覚えておいてください」
それ即ち、名前を教える気はないということらしい。私は少々残念に思いつつ、3人の男の背中を見送った。