第2章 スコッチ
「ごめん蘭ちゃん、ちょっと行って来る」
「えっ!?」
どうにかして女性を離さなければならない。私は荷物を床に置いて、男の方にツカツカと歩み寄った。
「動くなァ!」
男が金切り声でナイフを振り回して叫ぶ。だが私は臆することなく男の前に立ちはだかり、さらりと言った。
「人質の交換を要求するわ」
「「「!!?」」」
その場にいた全員が目を見開き、驚いた。蘭ちゃんは「お姉さん!?」と声まで上げてしまっている。
「その女の人結構身長高いし、私の方がコンパクトで人質向きだと思うけど?」
笑ってそう言う。周りで「何を馬鹿なことを!」などと言う声が聞こえた。男は自分の懐にいる女性と私を見比べ、女性の方を突き放した。
突き放された女性の足がもつれる。慌てて女性を支えると、「気をつけて」とだけ言われた。それが彼女に出来る唯一の優しさだろう。
「来い」
低い声でそう言われ、私は割と冷静に男の方へ歩いた。
男は私の首に手を回し、私を自分の盾にする形にした。
「いいかァ!お前ら一歩でも動いたらこの女ァどうなるか……」
と、3人の男が私と男の方へ歩いて来た。男が反応して私の首にナイフを当てる。チクリ、と注射のような痛みが首に来た。
「悪いけど、その子を離してくれますか?知り合いなもので……」
色黒の青年がにこやかに笑い、そう言った。だが私には見覚えがない。と、薄い顎髭の男が蘭ちゃんに話しかけた。
「悪いがそこのお嬢さん。警察に通報してくれるかい?俺の携帯は調子が悪くてね」
蘭ちゃんが慌てて警察に通報する。
「すぐにこっちに来られるそうです!」
蘭ちゃんの報告を聞いた私は考え込んだ。すぐに警察が来るならばこの男が逃走するのも時間の問題か。私はどうしたら男を捕まえたまま抜けられるか考えていた。
一か八か。すうっと深く息を吸い、私は自分を抑えていた男の手をガブリと噛んだ。
「痛ぇ……っ!!?」
男の手が緩んだ隙にそこから抜け出す。と、男が振り回したナイフが頬に当たった。チリッと痛みがしたが構わず離れる。
そしてその瞬間に長髪の男と蘭ちゃんが同時に男に蹴りを入れた。
手加減なしの一撃がいっぺんに2つも来たせいか、男は一瞬で気絶した。