第9章 バトルゲーム 〜謎めいた乗客〜
私が向かったある場所とは──新出医院。
「こんにちは、瀬里奈です」
声をかけると、奥から若い女性が出て来た。
「ひかるさん、お久しぶりです」
「瀬里奈さん!奥でお待ちですよ、どうぞ」
ここの住み込み家政婦のひかるさんが奥に案内してくれた。
ある部屋に通される。そこには──この新出医院の院長の息子・新出智明先生がいた。
「瀬里奈さん、お待ちしていましたよ」
「どうも」
ニッコリと営業スマイルで挨拶を交わし、私はさらに奥に案内された。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……さて」
私はふう、と息をついた。
「何の用?いきなり呼び出して」
私は先ほどとは打って変わった口調で、新出先生に問いかけた。この部屋にはダーツの盤があったり、酒が置いてあったりと、医者のイメージとはかなりかけ離れている。
新出先生は自身の顔に手をかけ、べりっと変装用のマスクを外した。その素顔は──杯戸シティホテルで会った、クリス・ヴィンヤード……ベルモットだった。
「貴女に用があるのよ」
「だから何?手短にお願い」
私は腕を組んでそう言った。ベルモットはくすくすと笑いながらこう言う。
「貴女のやる仕事が決まったわ」
私はほほぅ、と興味深げに眉を上げた。
「『情報収集、及びそれに関する仲間のサポート』……だそうよ」
「へぇ?楽しそうね」
私はニヤッと笑いながら言った。
「まぁ、まずはラムの右腕でもあるキュラソーに情報収集のイロハを教えてもらいなさい。そしたらすぐに彼と組ませるわ」
「彼?」
私は首をかしげた。今度はベルモットがニヤリと笑う番だ。
「バーボンよ。──知ってるわよね?」
「……どんな人?」
私はしれっとそう訊いた。ベルモットはニヤリと笑いながら答えた。
「日本人よ。褐色の肌をしている……」
「ああ、思い出した。高校の時に会った人だわ。彼と組むの?」
私は本当に今思い出したかのようにベルモットに尋ねた。
ベルモットは「ええ」と頷く。
「まぁ、貴女がきちんと出来るなら、の話だけどね」
「ふぅん。そんなにすごいの?彼」
私が訊くと、ベルモットは自信ありげに答えた。
「観察力及び洞察力に恐ろしく長けた探り屋よ」