第5章 Even if I leave it
室『お帰りなさい、坊っちゃん。』
松『ああ。 少し寝たいから。しばらく走らせて。』
室『承知いたしやした。 』
迎えの車の後部に乗り込むなり、シートをズサリと倒してアイマスクを着ける。
室『あの………。坊っちゃん。 大丈夫……ですかい?』
松『ん~? 何が……?』
室『いや。 何でもないならいいんすけど……』
そう言ったきり黙りこむ松本に、ムロもそれ以上は何も言えない雰囲気で、静寂の中いつの間にか寝息が聞こえ始めた。
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今だけは忘れさせてやるよ……か。
「俺の事……… 忘れないで………くれよ………潤」
実際には眠れるはずもなくて……死にぎわで最後に長瀬が残したそんな言葉を思いだしていた。