第4章 The walk to paradise
「よっしゃ!
じゃあ一発カマして来るかッ!」
私と『空神様』が愛し合った翌朝、そう叫んだ『空神様』は豪快に笑った。
そんな『空神様』を取り囲んだ私と犬族の皆は一様に心配そうな目をしている。
「……ったく。
手前ェら、そんな顔してんじゃねェ!
直ぐに戻って来るからよ。
待ってな!」
そのあっけらかんとした言い種に少しだけ心が軽くなる。
だけど私は戻らなかった兄の存在がどうしても頭を過って俯いてしまうと
「!」
『空神様』は力強く私の名を呼んだ。
ハッとして顔を上げた途端に、私の唇は『空神様』の唇によって塞がれる。
「………んっ。」
周りに居る犬族の皆が色めき立つ気配を感じながらも、私は目を閉じてその愛おしい感触に酔いしれた。
そして唇が離されると『空神様』はポンと私の頭に手を乗せて得意気な口調で言う。
「俺が戻ったら直ぐにこの犬ッコロ共の前で
『三献の儀』をやるぞ!
準備しておけよ。」
『三献の儀』………夫婦が永遠の契りを交わす儀式。
『空神様』から告げられた言葉に、心配で強張っていた私の表情が一気に蕩けてしまった。
「はい。」
頬を染め頷く私を見た『空神様』は、安心した様に「良しッ!」と一声だけ発し、何かを吹っ切る様に背を向ける。
そのままズカズカと紫電改に乗り込んだ『空神様』を見上げ、私は精一杯の笑顔で敬礼した。
「………どうか、御武運を。」
声と指先は震えてしまっていたけれど、笑顔で『空神様』に伝えられた事を自分自身誇りに思える。
少しだけ……だけど。
首に巻いた私が贈った兄の襟巻きをはためかせ、『空神様』も答礼を返してくれた。
「343空301飛新選組隊長、菅野直大尉。
行って参りますッ!」
こうして紫電改は飛び立って行った。
私はその機体が見えなくなってもずっとずっと……
青く澄んだ空を見上げていた。