第8章 第八章
なんとなく。いや…髭切さんの時に止めに入った人と言えば彼しかいないと思うのだ。それに今髭切さんが慰めているという事はきっと探せば直ぐに見付かる。けれど起き上がる私におでこに添えていた手のひらでペシッと軽く叩かれた。地味に痛い…
「大将、アンタ一応病人なんだぜ…池に滑り落ちて溺れる主とか聞いた事ねぇよ」
「うっ!ご、ごめんなさい…」
「まぁ…なにがあったか詳しくは聞かねぇけど、危ない事はすんなよ?大将が寝込んでから大半の刀剣男士やいち兄達が訪れて追い出すの大変だったんだからな?」
薬研くんは苦笑いでメガネを外すと机の上にそっと置いた。今日はこのまま寝ろと言われてしまう。しかし薬研くんの部屋がなくなってしまうのではないかと聞けば、粟田口の短刀…兄弟の所に今日は寝泊まりするから大丈夫だと言いくるめられてしまった為、分かったと小さく頷いた。
「なんかごめんね…」
「いや俺っちの事は気にするな。後…明日でもいいからいち兄の事を気にしてやって欲しい」
一期さんは私を思って言ってくれたのだと薬研くんは笑っていう。分かってはいるが今の一期さんは長谷部さんと同じ匂いがするのだと考える、忠義の為ならなにをしでかすか分からない。ありがたいが面倒だと小さく唸った。
「まぁ思い込むのは良くねぇぜ、大将に余裕があるならいち兄の事も宜しく頼む。それじゃあ俺っちは部屋から出て行くが…絶対部屋からいなくなるんじゃねぇぞ?」
過保護なお兄さんを思い出すような口調に大人しく寝ていようと布団を被り「はーい」と緩やかな声を出して目を閉じる。襖を開けた薬研くんは「お休み、大将…いい夢を」と静かな声が聞こえていた。
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夜中だろう時に、ギシギシと廊下がきしむ音を聞いた。すると薬研くんが寝泊まりする寝室でピタリと立ち止まった誰かに私は掛け布団から隠れるように見つめていた。スー…と静かに襖が開き誰かが入るとまた静かに襖を閉める音を聞く。
「主…すまなかった、まさかこんな事になるとは思っておらず…」
「……」
狸寝入りする私に、言葉を続ける彼は私の頭を撫でてくれた、その優しい言葉と動作にまた眠ってしまいそうだと思うも申し訳なさそうな謝罪を何度も聞いた。だから私はその彼に答えようと、むくりと無言で起き上がった。
「君っ!まさかとは思うがずっと起きていたのか!」
「ふふっ…こんばんは、膝丸さん」