第7章 第七章
「へし切長谷部、貴方が誰かを追い求めるのは別に構いません。でも、今の貴方の主はこの私です!小娘だと思われても間違いじゃないですから、そこに怒っている訳ではなく!私を見ないという事になんかもう…どうしようもないくらいに物凄く腹が立つんですよ!だから誰ではなく私を見なさい!いいですか!これは命令ではありません!私個人としての願いです!勿論、私を嫌いになって貰っても構いません!でも私を見て下さい!面影で重ねられても迷惑です!私は貴方の主であって主ではない!」
何回も私を見てと叫ぶ私は、ナルシストかなにかなのだろうかと思う。けれど私を見ているようで映していなかった彼の瞳が酷くむかむか来たのだ。子供見たく怒り散らす私に目を見開いた長谷部さんは、ようやく私を映してくれたように思えた。何度も瞬きを繰り返し、私から離れると深々と頭を下げた。
「も、申し訳…ありません…」
「はい、分かれば宜しい!ですがまぁ…気持ちは分からない事もないです。好いていたからこそ、面影を重ねて見てしまうというのは…あはは。私も人の事を言えませんしね?」
だからまだ未練がましいと言われてしまうのだろうと思う。あぁ…嫌だ、嫌だ。そんな自分が情けなくて、ここまで好きだったと思えてしまう相手に出会えてしまった事が悔しい。ふと長谷部さんが私を見上げて手を差し出して来た、私はそっと彼の手を握る。
「私がここにいるの…貴方は見えますか?」
「はい、俺の主はここにいます…」
「私の長谷部さんもここにいますね?」
愛おしそうに私を見上げた彼を見下ろして、指先を絡める。恋人のような甘い一時を過ごした私は可笑しくなり吹き出すように笑った。
「長谷部さん…小娘からの命令です。さっき渡した紙を伝令で伝えて下さい、出陣の準備を…」
「お任せください。最良の結果を、主に…」
「期待しています、ですが…」
頭を下げている長谷部さんを見下ろして、ぽんぽんと頭を撫でる。驚いたように見上げた彼の顔に近付き、長谷部さんの唇にそっと人差し指を押し当てた。
「無理はなさらぬよう…お願い致しますね?へし切長谷部、隊長さん?」
「!…主のおもうままに」
はらはらと桜の花びらが舞う、長谷部さんに手を差し伸べれば誇らしげな笑みで私の手をとった。それからの彼は早かった、やはり主命、主命と何度も言う長谷部さんの言葉は伊達じゃないなと思った。