第5章 第五章
ドサッと畳みの上に押し倒された、鶴丸さんは私の上で馬乗りになり表情を強ばらせている。ドキドキと胸が痛む、そっと割れ物を扱うように私の頬を撫でた彼は私の胸に顔を埋めて小さく呟いた。
「君が…俺に想いを伝えられないのは知っている。でも…これだけは言わせて欲しい」
「鶴丸さ…」
「君を好いてしまったんだ、一目見た時から…」
「っ…」
甘い、甘い、甘い…自分で言わせておいて今更過ぎるけれど、なんて甘い言葉なのだろうかと身体が沸騰するように熱くなり頬が熱を帯びた。
「主…俺は…どうすれば、良かったんだろうか」
「分かりません…ごめんなさい…」
このもどかしい想い…どうする事も出来ない虚しさ。今の私と鶴丸さんは似ていた。好きなら好きで仕方ないと私は言ったけれど…私は卯月の事を、もう簡単に手が届く訳ではないのに。どうしてここまで、好きになってしまったのだろうか。
「はは…すまん、そうだよな…君は恋仲の事をまだ」
「鶴丸さん…」
「いや…だが、俺は諦めが悪くてな。君の心や身体、全てをその男から奪って見せる」
ゾクッとする程に栗立った。優しさを見せる彼の瞳が鋭くなりニヤリと不適切に笑っていたのだ。簡単に心を持っていかれそうになり、顔を背けて目を閉じた。するとひょっこり顔を出した燭台切さんが気まずそうに声を掛けてくれる。
「えっと…今、入っていいかな?」
「あぁ、光坊…すまんな。丁度喉が渇いていたんだ」
ゆっくり私から退いた鶴丸さんは燭台切さんから水の入ったコップを受け取っていて、私が起き上がろうとする時少し困ったような表情で私に手を差し伸べてくれる燭台切さんがいた。私も今合った事を全て見られていたと思うと居た堪れず、うつむきながら手を取る。飲み干したコップを燭台切さんに渡す鶴丸さんは笑顔で、立ち上がっていた。さっきまでの事が演技であったかのように晴れやかだった。
「なぁ主…俺はやはり君を好いている」
「なっ…」
やっぱりそこは演技じゃなかったのか、嘘だと言って欲しかったと紅くなる頬を手で扇ぐ私に鶴丸さんは続ける。
「案外君は押されるのが弱いらしい…君を惚れさせる為に、もっと大きな驚きを君に捧げよう。本気で行くから覚悟しておけよ?」
どんな驚きを私にもたらせるつもりだろう。どうしようか…結婚指輪なんて出て来たら、そう合ってはならない事を色々と考えてしまう。