第5章 第五章
「俺は…君の優しさに好いてしまいそうになる」
「なにを…」
「はは…冗談だ、驚いたか?」
戸惑う私に鶴丸さんは微笑む。飄々とした笑顔の彼に違和感を感じてしまった私は、鶴丸さんの頬を思い切り横へ引き伸ばした。痛いようで嫌がる彼を見下ろして伝える。
「鶴丸さん、私の事好きなんですか?」
「!…そんな訳」
「自意識過剰だと怒って貰っても構いません。でも…私の経験上、貴方は私に惚れそうになってますね」
「ちが、おれは…」
「分かるんです。私もそうやって好きな人に巡り会えたから…」
「っあるじ…」
だけど気持ちに応える事は出来ない。私はあくまでここに仕事で来ているつもりであり、恋愛に現を抜かしている場合ではないのだ。相手がどれだけイケメンであり美人で、性格が良い上物のお相手だったとしても付喪神を独り占めをする訳にはいかなかった。
「でも私は思うんですよ、好きなら好きで仕方ないんじゃないのかなって…」
「仕方がないのか…」
私の膝の上から私を見上げる鶴丸さんを、見つめ返して分かった。やっぱりこの人は私の事を好きなんだなって…そう確信する事が出来た。私は生憎天然じゃない、多分…いつからだろう。きっと…初めて優しく声を掛けてくれた時から、彼の口調では分からなかった。
「不思議だったんです…初めて声を掛けてくれた時、一振りだけ殺気がなかった。ううん…殺気というよりもなにか別の感情を押し殺しているようにも思えた」
「っ…」
「それが…貴方だったんですね鶴丸さん。貴方は私に一目惚れをしたんじゃないですか…?だからずっと引っ掛かっていたし不思議だった。初めてこの本丸に来た私を嫌とも思わず、貴方から声を掛けてくれた時も、畳みから急に現れた時も、夜遅くに天井から現れて手の治療を行ってくれた時も…貴方の瞳には優しさしかなかった」
今、この状態を思い納得してしまった。彼は本当に酒に飲まれるタイプなのだろうかと…寧ろ飄々としているからこそ、こんな事で甘えるような人にも思えなかった。多分…これは甘い罠。私と二人きりで近付きたかったからという想いが隠されているように思えた。言うなれば…こりゃ驚いた。というべきか。
「付喪神さんでも恋はします。それが私なのはやっぱり照れますが…」
「主、やはり君に伝えたい…俺は君の事が」
「えっ、ちょっと!?」
起き上がったと思ったら思い切り押し倒された