第4章 第四章
明石さんが私の耳元で囁き掛けられ「今回の件はこれでちゃらにしときます…」と言っていた。あの声が耳に残ってしまい、舐められたという事もひっくるめて頬が熱くなった。誰かに見られた時になんて説明しようかとふらふら立ち上がり、熱の溜まる頬を手で扇ぎ必死に冷ましてお風呂場からふらりと立ち去った。
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誰にも会う事はないと思っていた、そう思いたかった…ある意味一番会いたくはなかった相手でもあった。私も彼も両方が戸惑い、私はさっと包帯で巻かれた手の平を隠した。きっと正義感の強いだろう真面目な彼は私が思っている以上に責任感を負っているだろうと思ったからだ。私はそっとその彼に声を掛けて見る事にした。
「こんばんは…どうしましたか?こんな夜更けに。私が今日寝泊りする寝室の前の廊下に立ち止まって…ねぇ、一期一振さん」
「…あるじ、どの…」
「入りますか?立ち話もなんですし…」
「!…いいえ、淑女の寝床には入れません。主殿も軽率な発言は控えた方が宜しいかと…」
「!…ごめんなさい。配慮が足らずに…それじゃあ。ここで話しをしましょうか?」
話しとしても大体の検討は付いている、湯冷めをするから本音を言えば寝室の方が良かったのだけれど彼が嫌がるなら仕方ないと彼の言葉を待った。私の頭一つ分背の高い彼を見上げてにこりと安心させるように微笑んで見せる。
「…ご気分はいかがですか」
「大丈夫ですよ。しっかり長谷部さんに巻いて貰いましたし…」
「いえ、鶴丸殿が仰るにはまた傷口が開いたと…」
「……」
鶴丸さん、また余計な事を伝えてしまったのね…まぁ、しかし彼もまた優しい一振りだから敢えて一期さんに教えたのだろうと思う。言わなければ彼も決心して初日で私に会いに来れなかったと思うからだ。
「主殿、私を刀解して下さいませぬか…」
「はっ?」
「私は淑女である主殿に怪我をさせてしまいました。貴女は刀解しないと仰ったが、血が登り八つ当たりという形で主殿に刀を向けた事は事実です。弟達の言葉と想いで貴女はーー…」
「馬鹿じゃないんですか?」
「なっ!主殿!私は本気でっ!」
「だーかーらー!そこが馬鹿じゃないのかと言ってるんです!確かに貴方の弟さん達に言われたから、というのもありますよ?でも貴方がいなくなった時…置いて行かれた身にもなって考えてあげて下さい。慕われているなら勝手に居なくなるな、いち兄!」