第10章 願の先に
「アベルさん?」
「…あり、が、と…ぅ」
振り絞った声が聞こえたと思うと、アベルさんの体はするりと落ちていきました。
その体にはもう暖かさがあまり残ってなく、氷のように冷たくなっていました。
そこでようやく私の頭はアベルさんの死を理解することができたのでした。
「…お兄様?」
声を発せたのはその一言のみ。
今までずっと他人行儀で、一度もお兄様とは言ったことなかった。
言えばよかった。こんなにも悲しい結末を迎えるなら。
私をこんな冷たい世界から連れ出してくれた唯一の人はこの世からいなくなってしまった。
最期がありがとうって何ですか?
私は何もしていませんよ?ただお兄様にずっと守られていただけです。
頭の中で混乱しながら氷のように冷たくなっているお兄様の体を私はずっと抱きしめていることしかできませんでした。
それから無事に出向できた私たちはどことなく重苦しい空気が漂っていました。
お兄様をそのままにしておくわけにはいかないので、一度船に乗せ私たちは今無人島に向かっています。
お兄様がさみしくないように、緑が豊かで動物たちのいるようなそんな島を今探しています。
「…アリス」
私に声をかけてくれたのはエース。
一度も泣いていない私の様子を見に来てくれたのでしょうか。
エースもどことなく決まずそうに私の隣にやってきました。
「航海士がいい島を見つけたらしい。そろそろつくからとりあえずお前は着替えてこい」
そういえば、船に乗ってから一度も着替えていませんでした。
一度部屋に戻りボロボロになってお兄様の血がついているドレスを脱いで、部屋にあった服に着替える。
どうやら目的の島についたらしく、皆さんバタバタしながら上陸の準備を始めていました。
着いた無人島は大きな森がある島は確かに緑豊かな場所でした。