第9章 末っ子の想い
入ってきたのは一人のメイドさんでした。
「エリオット聖のおっしゃっていたケーキをお持ちいたしました」
目の前に置かれたのはおいしそうないちごのショートケーキ。
真っ赤ないちごがとても印象的に見えます。
思わず顔がほころんでいると、ひとつの銃声が部屋の中に響きました。
その音の発信源は目の前のエリオットさん。
一つの銃をメイドさんに向けて発砲していました。
最初は何が起こったのか全く分かりませんでした。
意識が戻ったところで急いでメイドさんに近づいて傷の状態を確認してみると、腕にかすっていただけなので大きな怪我ではなさそうです。
「大丈夫ですか!?」
自分のドレスを裂いて傷の手当をしていきます。
怪我をさせた本人はまるで知らんふり、まるで何事もなかったかのようにそのまま出されていたケーキを食べていました。
「どうして?どうして銃で撃ったんですか?」
あたる場所が悪ければ、彼女は確実に命を落としていました。
それなのにどうしてこの人は何も気にせずにケーキを食べているんでしょうか?
「私の命令の通りのしなものを持ってこなかった。それだけのことだ」
それだけ?たったそれだけの理由でこのメイドさんは撃たれたんですか?
天竜人の世界ではこんなことは当たり前なのですか?
私の中には疑問しか浮かび上がってきません。
そして思うことはただ一つ。
“こんなところにはいられない”それだけです。
「さぁ、あなたは手当を受けてきてください」
メイドさんを追い出し、私はエリオットさんの方を向きなおしました。
以前彼は何も感じていないのでしょう、まるで不思議なものを見るような目で私を見てきました。
その目を見ているときっと私が何を言っても無駄なのでしょう。
「今日はここで失礼いたします」
私は一度お辞儀をしてから部屋を出ていきました。目の前にはリアムさんが私を待ってくださっていました。
「大丈夫でしたか?」
おそらくさっきの銃声のことを言っているのでしょう。
メイドさんが出て行っているので分かってはいるのでしょうけれどもわたしの無事を確認したかったようです。