第9章 末っ子の想い
「オズワルト聖、アリス宮をお連れいたしました」
アベルさんは私の横で膝まづいた。
オズワルト聖と呼ばれた人はチラッとアベルさんを見ると、すぐに私の方に視線を移しました。
目が合った瞬間、びくっと体が震えたのが自分でもわかりました。
私の中では、父親の記憶はないのだから行ってしまえば初対面の人。
一体この人の口からはなにが発せられるのか、租俺が一番怖かった。
「やぁ、アリスだね。初めましてと言うべきか、お帰りなさいというべきか」
私が予想していたよりもずっと優しい口調。
アベルさんから聞いて予想していた人とは全くの別人に感じました。
「あ、あの。は、初めましてアリスです…」
緊張のあまり私の体は固まり、声も思ったよりも全然出ませんでした。
もっと怖い人かと思っていたので少し拍子抜けと言うか、自身の欲望のためだけに動いているとは到底思えないような第一印象でした。
私が緊張で固まっていると気付いたのか、お父様は私を近くのソファに座るように促しました。
そしてそっと私のことを抱きしめました。
「あ、あの…」
「大きくなった。あの赤子がここまで大きく成長するとは…。アリス、よく帰ってきてくれた!」
ここまでを見るとどこにでもいそうな子供想いのお父様。
でも、遠くでその様子を見ていたアベルさんは静かにお父様を睨んでいました。
「長旅で疲れたどろう。部屋を用意したから今日からそこで過ごしなさい」
「あ、ありがとうございます」
ニコッと笑うお父様の顔はどことなくアベルさんと似たようなところを感じました。
部屋に通されると、そこは今まで過ごしてきた部屋と比べようもない広い部屋。
呆気にとられる私を見ながらお父様は笑っていました。
「式の話は明日、ちゃんと話をしよう。今日はゆっくりお休み」
「あ、あの!」
私の発した声も聴かずにお父様は部屋に鍵をかけて出ていきました。