第9章 末っ子の想い
「ここが…」
約四日ぶりに船から降りると目の前にあるのはクビが痛くなりそうな背の高い建物。
聖地マリージョア。
「ここに来たのは久しぶりだ」
ぼそっと私の隣で呟いたのは勿論アベルさん。
正体がバレてはいけないということで、ウィックをかぶりメガネもしていました。
「アベルさんはマリージョアに来たことはないんですか?」
「あぁ、アリスには言ってなかったな。俺たちが離れ離れになったあの日俺はセンゴクさんに拾われたんだ。事情を話してセンゴクさんは俺を海軍に入れてくれたんだ。」
要するに私と共にここを出て以降戻ってきてないということですね。
「で、アリスはいつになったらその他人行儀な呼び方を止めるんだ?」
「えっと…それはまた今度で…」
流石にまだそんなに日にちが経っていないので恥ずかしいです…。
アベルさんと会話をしながら建物の中にどんどん進んでいきます。
中は見た目に反さずに広いです。
長い廊下を歩いていると、奴隷と思しき人たちが何人もいます。
その人たちの目には生気と言うものが全く宿っていなくて、これを自分の実の父親がやっているのだと思うとゾッとしてしまいます。
奥に突き当たると、他のところとは全く違う大きな存在感を放った扉が立ちはだかりました。
ほぼ間違いなくこの奥に私の実のお父様がいらっしゃるのですね。
覚悟をしてここまでやってきたと自分では思っていましたけれでも、扉の前に立ってい見るとそれは全く意味をなしていません。
アベルさんは私の頭をポンと一撫でしてから目の前の大きな扉にノックをしました。
中からは了承の声だけが聞こえ、それを合図に大きな扉はギチギチと音を立ててゆっくりと開いていきます。
アベルさんに促されて中に入ると目の前にはひとりの男性。
この人がオズワルト聖…。
口ひげを生やし、キツネ目、その隣には再び奴隷と思しき人が一人。
決していい光景などではなかった。