第1章 キスから始まる恋の話(牛島若利×白布姉)
いつも通り残業、残業、残業。週の始めはよし、頑張るぞと気合いも入るんだけど、金曜日となると、流石にその気合いももう空前の灯火。でも、今日の残業をこなせば、二連休。うん、頑張れる。さっきから斜め向かいから上司が自慢話を延々と喋っているが、気にしない。適当に相槌をうって、愛想笑いで誤魔化す。
上司に与えられた仕事もなんとか終了し、お疲れ様でしたと上司に声をかければ、今日は私もこれであがるから、と言って上司と共に職場を出た。会社の外に出るまで自慢話は続いた。会社の外に出て、お疲れ様でしたと声をかければ、いつもは車で出勤してる筈の上司が私の隣を歩き続ける。
「あの、車は?」
「今日は私も電車なんだ。」
心の中で舌打ちをした。そして駅まで、このクソ上司の隣を歩く苦痛。先程までの自慢話は終わったみたいで、今度は私の事を褒め始める。可愛いだ、気が利くだなんだと。そんなことないです、なんてお決まりの言葉を並べ、少しでも早く駅について欲しい一心で、足を早める。会社から駅まではたったの十分。なのに、その十分は人生で一番長いと感じる十分だった。
ようやく駅について、今度こそと思い、お疲れ様でしたと声を掛けると、
「いつも白布さんには残業してもらってるし、御礼も兼ねて今から呑みに行こうよ。勿論私の奢りだ。」
御礼はいいから、日々の残業を減らしてください。それが無理なら今すぐ開放してください。そう、言いたいけど、目の前にいるコイツは仮にも上司。そんなこと言う勇気はない。
「待ってる人がいるので。」
「またまた、彼氏いないって言ってたじゃない。」
彼氏はいないけど、多分牛島君待ってるし。私を、じゃなくて私の作るごはんをだけど。
強引に肩を抱き寄せられ、それが非常に不愉快に感じた。
「やめてください。」
「上司と呑むのも仕事のうちだよ。いい店知ってるんだ。白布さんも気に入ると思うよ。」
耳元で囁かれるその声は実に不愉快極まりない。
「二人きりで色々、ね。」
ね、ってなんだ。本当に無理。マジで無理。超無理。キモいじゃない。気持ち悪い。
上司だから一応、優しく対応していたつもりだが、もう無理。我慢の限界。今までの不満をぶつけようと口を開こうとした時、誰かに手を引っ張られ、引っ張られた方向に私の体は倒れた。