第8章 豪運のエイブラムス
2人の姿を見送ると
ガラリと病室の扉を開ける
急に開いたドアに驚く様な顔をした名前は
すぐに『ザップ』と名前を呼びふわりと笑顔を見せる
『あら、クラウスさんとレオは?』
「ついさっき帰った」
『2人とも明日には退院出来るって言おうと思ったんだけど』
通り道だしよってこうかしら、と首をかしげる。
「おい!」
携帯を取り出しメールを打つ名前の手を掴み
ザップが声を荒げる
『ん?ザップどうしたの?
病院では静かにね』
と、唇に人差し指を当ててしーっとザップに注意する
いつもなら、笑って文句を言うザップが表情1つ変えず
名前の腕を強引に引き寄せ
力強く抱き締める
『ちょ‥ね、ザップ少し苦しいんだけど』
彼女の言葉に反応もせずに、ぎゅっと彼女の存在を確かめる様に
抱き締める腕に力を入れる
「何で、無理してついていった?」
『何でって、私一人待ってるわけには行かないでしょ?
別に無理なんかしてないわ』
「前衛に向いてないのは、お前が1番わかってるだろ
しかもあの人数相手に」
普段は、潜入捜査や隠密、たいまんでの戦いが多い
ライブラで治療が出来るのも名前だけであり
チェイン同様大勢の敵と戦う様な前線に出ることは
相性のいいザップと組む以外全くと言っていいほどない
『それでも、時間稼ぎくらいは出来ると思ったのよ
それに私が1番しぶといしね』
にこりと笑い、
『ありがとうザップ
心配させてごめんなさい』
そっとザップの背中に手を回す。
腕の中にいる名前の暖かさに、
地下鉄で触れた彼女の冷たさを思い出す
「っとに‥‥死んだかと思った」
「死ぬ前に1発無理やりにでもやっとけば良かったって思った」
「ーーーっ!!」
デリカシーの無いザップの言葉に、思い切りピンヒールで
足を踏みつける
『本当最低!この糞底辺猿』
涙目でしゃがみ込み、足を撫でるザップに
クスクスと笑いかけ
『心配させたお詫びに、ほら
今晩一緒に飲みに行ってあげるわ』
「やっと俺のもんになる気になったのか?!」
『そんなこと一言も言ってない』
いつもの様に言い合い
ランブレッタに乗るザップの背中に
小さく『ありがとう』と、呟けば
「おー」
とぶっきらぼうな返事が返ってくるのであった。