第5章 艶然とした狂気
彼女の華奢で少し甘い匂いのする首筋に
顔を埋めながら
〈レオはここで待っててもいいよ?〉
昼間の彼女の表情を思い出す
『まだ、レオに話した事もなかったから
急にあんな闘い方みせたら、ビックリしちゃうでしょ?』
きっと、裏の世界に浅い僕に気を使ってくれたのか
名前自身が見られたくなかったのか
今彼女がどんな顔をしているのか
やっぱり僕には何にも分からなかった。
「別に、僕は何にも思いませんよ、ただ・・・」
『ただ?』
「お昼にしてくれた事、もう一度して欲しいです」
そう発して名前の肩から頭を持ち上げ顔を覗くと
すこし驚いた様な顔をして
『あら、本当にレオは欲張りさんだったのね』
直ぐに余裕のある艶かしい笑顔をみせると
情欲を掻き立てる仕草で
僕の首筋から頬にゆっくりと手を添わせ顔を近づける
そんな甘い雰囲気とそれを自分から言い出した事実に
急に恥ずかしくなりぎゅっと目を閉じると
チュ
軽いリップ音の後に、パチンとおでこに痛みが走る
「ーーーーい゛った」
盛大にデコピンをくらったおでこに手を当てて名前を見上げると
『早くシャワー浴びて寝なさい!
この酔っぱらい!』
いつもの悪戯っ子の様な笑顔で
それじゃあおやすみ〜と何事もなかった様にリビングを出て行く
名前の背中に
「ーーー頰っぺたじゃないですか」
聞こえるか聞こえないかの声で文句を言う
返事のない真っ暗な廊下を見ながら
彼女の唇の感触がまだ残っている頬に手を当てる
シャワーと共にやり場のない火照った感情を洗い流したのだった。