第5章 艶然とした狂気
扉を開けるとおはようございますとふわりと微笑んでくれる
彼女が今日は姿が見えない
代わりに一緒にやってくるであろう少年の
おはようございますスティーブンさんと言う声が耳に届く
「おはよう。名前はどうしたんだ?
今日は任務はないはずだが・・・」
「いますよ、そこに」
と、少年の指差す方に視線をやると
いつぞやの少年の様にソファに埋もれる名前の姿が目にはいる
「どうしたんだい、コレは」
少年に目をやると、困った様な笑みを浮かべ
「実はーー」と、今朝の話を話し出す
今朝も日課の占いを見て
今日のラッキーアイテムは〈お気に入りのカップ〉だったそうだ
「それで、名前さんはすぐにでもと、
コーヒーを入れようと棚を開けて
そのままカップを落としてしまってーー」
少年が話し終わると、ゔゔーとソファのソレがモゾモゾと動き
呻き声をあげる
「名前、元気出して」
いつものごとく何処からか姿を現したチェインがソファに座り
名前の頭を撫でる
『ん、ありがとう。』
チェインの太ももに顔を埋めながら、もそもそと返事をする
『チェイン本当に良い子ー!お姉さん本当に嬉しいわ
いざとなったら私が嫁に貰ってあげるからねー』
あ、でも私潔癖だからなー、と一言多い名前に
チェインの小さな舌打ちが響く
扉を開く音がして誰かが近いてくる足音がする
「ザップさんおはようございます」
「おー
名前どうした?」
名前は埋もれたまま片手だけあげてヒラヒラと振ると
「なんだ?生理か?」
『死ね』
名前は身体を持ち上げソファに座り直すと
不貞腐れた表情でデリカシーのない友人に悪態をつく
名前の頭をぐしゃりとなでる
「おはよう」
彼なりの気遣いにクスクス笑いながら
おはようと言葉を返す。