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蜘蛛の娘 [H×H長編]

第1章 邂逅


ザハン市のとある定食屋。
店主は顔に似合わず気さくで、料理の味も良いと評判の店だ。


勢い良く開けられた扉もそのままに、入り口で高い声が上がった。



「ステーキ定食ください!
焼き方は弱火でじっくり!」



ちょうど昼時らしく、定食屋の店内は満席に見える。

急ぐ客は暖簾をめくって顔をしかめ、
他の店に足を伸ばそうと算段するほどには混んでいるようだ。


そんな店内に響いた注文の声。


その声に強面の店主が目を見開いて驚いたのは、椅子にも着かず注文をした客があまりにも無礼だったからか。

否、「その注文」を口にするなど、あり得ない客だったからだ。


背丈は今年で10歳になる店主の息子と同じくらい。綺麗に切り揃えられた黒髪が、腰まで隠して揺れている。

じっとこちらを窺う瞳も真っ黒で、眼窩からこぼれ落ちやしないかと不安になるくらい大きい。


どこからどう見ても、年端のいかない少女だった。



(よくよく、あり得ないことが起きる世界だ……)



一瞬の間をあけてしまった自分に苦笑しながらも、店主は次の台詞を己に課した。


「あいよ!1名様、奥の部屋へご案内~!」

「ありがと、おじさん!」


受け答えも物腰も、やはり正真正銘の少女に見える。
自分のルールから逸脱すると承知しながら、店主は少女の後ろ姿に声をかけてしまう。


「お嬢ちゃんには荷が重いかもしれんが、
がんばりな」


声をかけられるとは思っていなかったのだろう。
驚いた様子で振り返った少女は、しかし……


眼で笑って返してみせた。




「………」




その笑顔に再度驚かされた店主の独り言は、誰に聞き咎められることもなく店内の喧騒にさらわれていった。



「だからハンターになろうなんて連中は……
おっかねぇよ……」









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