第2章 マーガレット
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「もう嫌だぁ……」
その日の夜、部屋で一人呟いた。その呟きは空気に溶けて、消える。
私は椅子に座ったまま、思いっきり伸びをした。そんな私の机の上には、ボロボロになった折り紙。……マーガレットのつもりで作ろうとしたものだ。
諦めようかなぁ、と一瞬考えて、それはダメだと一人で突っ込む。めぐみも今頃頑張っている、そう思うと、手は自然に折り紙へと伸びる。
気持ち悪い、なんて言われたって構わない。それだけ好きだったのだ。
「……あれ?」
何で鶴が折れちゃったんだろうか?マーガレットを折っていた筈なのになぁ…。
私は溜め息を吐くと、鶴を解体し始める。ごめんよ、愛しき鶴。お前のことは忘れない。
大体、花言葉だけで決めちゃダメですよ、めぐみ。折れないものを提案されても困る。
…まさか、折れないのは私だけ…じゃないよなぁ…。
ふと、脳裏をめぐみと木崎さんが過る。
入学当初はすごく仲良しだったな、あの二人。そんなことを考えると、なぜか胸が痛んだ。
ぐしゃり、と私は、無意識に折り紙を握りつぶす。握りつぶしてから、ハッと我に返った。
「あーあーあー…勿体無い…」
こんなにぐしゃぐしゃになってしまっているならもう使えない、と私は新しい折り紙を取る。束から紫色の折り紙が覗いた。
そう言えば、めぐみは紫色が好きだったな、とぼんやり考える。
マーガレット。紫色。
めぐみにあげたいと思った。…理由は無いけれど、ただ何となく。
理由は無いけれど、木崎さんにはあげたくないと思った。
けれど、そんなことをしては駄目だ。だって、学級委員で決まった事だし、何よりそんなことをする程冷酷じゃない。
「…………」
私は椅子に座り直すと、作業を再開する。そのときにめぐみの顔が浮かんだのは、きっと誰にも言わない。