第2章 マーガレット
確かに私は、めぐみが好きだった。
誰に何を言われようが、好きだった。
***
「マーガレットって、どんな花だっけ」
半歩先を歩くめぐみが呟く。
廊下の窓からオレンジ色の陽がさしていて、彼女の黒い髪と長い廊下を照らす。それを見て、綺麗だと思った。夕陽も、それに照らされる彼女も。
「……もしもーし、聞いてる?」
「え?あ、ごめん」
めぐみの溜め息が耳に刺さる。ごめんね、だからそんな呆れた顔しないで。悲しくなるので。
半歩だけだと思っていた距離は、いつの間にか広がっていて、1メートルくらい先にめぐみがいた。
「で、何でマーガレット?」
立ち止まっているめぐみを追い越して、彼女の少し先で立ち止まる。ここからだと、めぐみの表情がよく見えるから。
「A組にさ、はるかって子いるじゃん。病気でずっと休んでる、美人な子」
美人。病気。A組。
この3つの単語を聞いて、誰だか分からない人なんてきっといない。……この学校には。
「あー……名字なんだっけなー……」
「木崎。木崎、はるか」
そうだ、木崎さんだ。木崎はるか。
入学してから1週間くらいは元気に登校していたものの、ある日突然学校を休み始めた。
そこで、先生に知らされた事実。
ーーー木崎さんは、今、入院しています。
それから暫くの間、木崎さんの話題でもちきりだった。そりゃそうだ、学年で1番の美人が入院したのだから。
勿論私も心配した。けれど、それから何も情報が無いので、何も分からないのだ。
「…で?木崎さんがどうしたの?」
「いや、学級委員でマーガレットを折り紙で折って持って行くことになったんだよねー」
あぁ、なるほど。学級委員で折るのか。
…………。
うん?折り紙?学級委員?
「え!?学級委員ってことは私もやるの?てかマーガレットって折り紙で折れるもんなの!?」
思わず叫ぶ。
だって無理に決まってる、そんなの。
ただでさえ折り紙が苦手なのに、マーガレットを折るなんて無理な話だ。
……が。
「そうだよ、頑張ろ」と涼しい顔で言うめぐみ。そうだった、めぐみは手先が器用なんだった…。