第46章 暇乞い
雪の国から帰国してから数週間後の夕方。
数日間の休みを与えられたルナは、神隠れに行くための準備をしていた。
「……着替えオッケー、ゴミ箱は空、生鮮食料品は使い切ってる……うん、準備オッケーだな。さてと……」
コンコン
準備が整ったことを確認したルナが、飛雷神の術を使おうとしたとき、ドアを叩く音がした。
「……げ、この気配は…………」
そう呟きながら、ルナはパタパタと玄関に向かい、ドアを開いた。
ガチャ
「……あーやっぱり。」
ハァ、と溜息を吐くルナに、その人物が苦笑を返す。
「……なんだよレイ君、そんなにイヤそうな顔をして。」
その人物……カブトが、深く被っていたフードを上げ、やれやれという様子で首を振った。
「……ちょっと、今立て込んでるんで。家の中で話しませんか?」
ルナはドアを大きく開いて、カブトにそう促した。
「……まあ、いいだろう。人に見られても困るし……ね。」
カブトはニコリと笑うと、ルナの家の中に踏み込んでいった。
「…………うん?この荷物はどうしたんだい?どこか出かける予定でも?」
リビングルームのど真ん中に無造作に置かれている鞄を見て、カブトが呟いた。
「ええ、まあ。あ、逃げるつもりはないですよ。一泊するだけです。ご心配なく。」
ルナはカブトが考えているであろうことを察して、先回りして宣言した。
「……そう。で、用件だけど……レイ君、大蛇丸様がお呼びだ。今すぐ、僕と一緒に来てもらう。」
カブトがなんでもないことのように言った。
「……少し、待っていただけませんか?できれば明日の夜まで。暇乞いがしたいんです……ダメですか?」
(今すぐ直行なんて、絶対イヤだ……あと一回だけ、神隠れ行かせてください……カブトさん。)
ルナは寂寥感の篭った赤い瞳で、カブトを見つめた。
「……うーん、参ったね。でも、僕がレイ君を力づくで連れて行くのは無理があるしね…………」
カブトが困った困ったとでも言いたげに前髪を弄る。
だがしかし、それほど困っているようにも見えなかった。