第20章 虹村修造
「何、なんて書いてあるの?」
「これもそのうちデカイのに買い替えねーとな、って話だよ」
やわらかな質感にふたりで一目惚れした本革のソファーに腰を下ろすと、思案するように顎に手を当てる彼の言動は意味不明。
確かに手狭になってきた感は否めないが、家の中でも走り回っている息子が、そんなものを欲しがっているなんてまったくの予想外だ。
首を捻っていると、おもむろに引き寄せられたソファーの上で、背後から抱きしめてくる腕に、体温が上がる。
「な、急にどう……したの」
「ん~?願いを叶えてやろうかと思ってよ」
「何それ」
会話が噛み合わないまま、腰に巻きつく腕と、うなじに触れる吐息に、無駄とは知りながら抵抗を試みる。
「っ、お風呂もまだ、なのに」
「後で一緒に入りゃいいだろ?どうせ汗かくんだし、その方が省エネだろ」
いつからエコ人間になったの、と突っこみながらも、押し倒されたソファーに背中は心地よく沈んでいく。
「ここ、で?」
「オマエ、声デカいから起きちまうだろ……っ、てぇな!」
「ば、バカなこと言うからでしょ!」
エプロンの上から胸をまさぐる手を思いきり叩くも、覆いかぶさってくる身体はビクともしないどころか、楽しげに肩を揺らしながら体重をかけてくる。
「っんと凶暴だよな、うちのカミさんは」
「ちょ、修……っ、んん」
せめて電気くらいは消して欲しいと思うのに、その手段を奪われて、性急な手になすすべもなく肌を暴かれて。
貪るような唇と、荒々しく絡む舌に、酸素を求めて大きく喘ぐ。
「ふ、ぁ……待っ、て」
「オレの願いは叶えてくんねーのかよ」
昔はヤンチャしてたなんて信じられない不貞腐れた表情は、巧妙な罠だと分かっているのに。
いつの間にかまくり上げられたシャツを気に留める間もなく、下半身に伸びる手に、期待で腰が跳ねる。
照明を背に、影を落とすその表情は、子煩悩なパパではなく、飢えた目をしたオトコの顔。
ネクタイを解くその指でもっと触れて
漆黒の瞳の奥にくすぶる熱で身体に火をつけて
「んなエロい顔しやがって……今夜は覚悟しとけよ」
そう言いながら、その唇がどれほど優しく肌に触れるのか、知ってしまった自分に勝ち目はない。
膝を割り、沈みこんでくる重みを受けとめながら、しなやかに隆起する背中に、私はそっと手を滑らせた。