第14章 黄瀬涼太 **
腕の中で大きく見開かれた瞳が、かすかな期待を追い払うようにパチパチと瞬く。
(ここは期待に応えるべきっスよね、やっぱ)
「エースの実力、ナメてもらっちゃ困るんスけど」
「何、訳の分からないこと言って……っ」
ジタバタと抵抗をみせる腕をあしらいながら、少し強引に塞いだ唇のやわらかさに、己の忍耐力のなさと、胸の渇きを思い知る。
でも、こんなにも心が求めるのは彼女だから。
ピクリと弾ける肩を手のひらでなだめ、黄瀬はかたくなな唇を角度を変えて啄んだ。
「口、開けて」
「駄、目っ……んン!」
制止の声をあげる一瞬の隙をついて、唇を深く割り、奥に逃げこむ舌を追いかけ、絡めとる。
甘くて、熱くて、交わったところから溶けてしまいそうだ。
「ふぅ、も……ダメ」
「ゴメ、ン。止まんない」
キスの隙間からこぼれ落ちる甘い吐息と、腕にしがみつく細い指に、首の後ろが総毛立つ。
こんなんじゃ足りない。
もっと──もっと欲しい。
身体にフィットするジーンズの下で主張をはじめる昂りは、男子高校生の正常な反応だと自己弁護しながら、あふれる唾液をすすり、呼吸まで奪うようなキスを繰り返す。
(でも、これ以上はヤバい……かも)
それは、辛うじて残っていた理性のカケラ。
ちゅくりと音を立てて解放した唇が、浅い息を吐きながら「一回って言ったのに……黄瀬さんの、嘘つき」とへの字に曲がる。
あぁ。この顔、好きなんだよな。
火照る頬をそっとなで、うつむこうとする顎にかけた指を、だが拒まれる気配はなかった。
「でもさ、オレのキス……嫌いじゃないよね?もっとシてって顔に書いてあるっスよ」
「そ、そんなこと……っ」
首まで朱に染めて恥じらう姿は、自分だけに許された極上の景色。
きらびやかなイルミネーションも、どんな美しい夜景も、きっと敵わない。
『ちょっと涼太ー!何やってんの!はやく結ちゃん送っていきなさい!』と階下から無粋な声が飛んでくるまであと数分。
「もっとシテいい?」
答えに窮してパクパクと動く唇が、『待て』の声をあげる前にふわりと塞ぐ。
彼女の命令は絶対だから。
支配しているのか、されているのか。
ひんやりとする髪を梳き、弱点である耳朶を弄びながら、黄瀬は邪魔が入るその瞬間まで、濃厚なキスを浴びせ続けた。
end