第8章 今吉翔一・牛島若利 【R18】
『今日も気温は35度を超え、猛暑日となりそうです。こまめに水分を補給をして、熱中症には気をつけましょう』
「あーもう、なんでこんなに暑いのよ」
高層ビルが林立するオフィス街は、ヒートアイランド現象という厄介者のせいで、朝のニュースで告げていた数字以上にカラダに堪える。
年を追うごとに夏の暑さが厳しく感じるのは、地球温暖化のせいだけじゃないことは頭では分かっていても、素直に認めるのは少し癪だ。
「京都議定書とかパリ協定はどーなってんのよ、まったく。なんとかしないと人類みんな仲良く溶けちゃうんだから」
朝からコンクリートをジリジリと焼く日差しに忌々しげに手を翳すと、水原結は空調の効いたビルに到着してホッと息を吐いた。
「よし。ちょっと休憩するかな」
会社に到着しただけでクタクタの身体にムチ打って、期限が明日にせまった仕事に取り組みながら、ふと頭をよぎるのは今日の自分へのご褒美を何にするかということ。
とはいっても、欲しているのは残念ながら色気ではなく食い気。
今日は早めに仕事を切り上げて、どこかで一杯飲んで帰ろうか。いや、熱いシャワーを浴びてスッキリした後、クーラーの効いた部屋でまったり家飲みというのも捨てがたい。
(オヤジか、私は……)
急に渇きを覚えたノドを潤すため、フロアの隅に設けられたドリンクコーナーへと足を向けた結は、飽きもせず繰り広げられている女子トークに、海より深い溜め息をついた。