第2章 相死相殺
例えば、愛した人が敵だったらあなたはどうするのだろうか。
例えば、愛した人が敵で自分の手で処罰をしなければならないとなったとき、あなたはどうするのだろうか。
例えば、愛した人が―――――――――。
* * * * *
私が愛した人は、新撰組局長近藤勲だった。
私は攘夷志士で、今でも幕府を恨んでいる。
戦争にも参加した。
たくさんの人を殺した。
私が愛した人は、泣く子も黙る新撰組の人。
と同時に組をまとめる局長。
私は攘夷志士。
高杉に言われた命令は潜入して近藤を暗殺すること。
新撰組に潜入するのは簡単だった。
こんなに緩くて本当にいいのかと思うくらい。
だからこそ思った。
こんなゆるゆるでたるみきったやつらに国は任せられない。
さっさと近藤を暗殺して、そして混乱したところを狙って全員殺してやると。
だけど、想定外のことが起きた。
新撰組に潜入して3年が経った。
未だに近藤暗殺に成功していない。
それどころか、私は彼のことを愛してしまった。
きっかけはとても些細なこと。
あれはいつだったか。
忘れてしまったけど、あの言葉だけは忘れない。
『目の前で命狙われてる奴がいたらいい奴だろーが悪い奴だろーが手ェ差し伸べる。それが人間のあるべき姿ってもんだよ』
この人は何かが違うって思った。
新撰組も攘夷志士も目的は同じ。
よりよい国を作るために、それぞれ動いている。
どちらも間違っていないのに……。
それを知ってしまった瞬間、私は近藤を殺せなくなった。
彼の優しさが、彼の人の好さが、彼に対する信頼が私を駄目にした。