第4章 20年越しのアイ・ラブ・ユー。
あれから数時間。
彼らは今、ファーストフード店にいた。
「思い出の場所つって動物嫌を克服したつったから動物園かと思ったけど……」
「いませんでしたね。木葉さんの推理ははずれです」
「そういう赤葦だって外れたじゃねえか。いつもの待ち合わせ場所だったあの道」
「二人とも落ちつけよ。……それよりまだ思い出せねえのか。少しはヒントになるもんでもないのか」
「う~ん……さっぱりわからん」
ふと、窓の外を眺めた。
真っ青な空と、赤色に染まる木の葉に目を奪われる。
その中に一つ、イチョウの木があった。
強い風が吹き、イチョウの葉が宙を舞う。
「あ!!!!」
一際大きな声を出したせいで、木葉、小見、赤葦以外の客もみんな肩を揺らす。
「うるせえ!!」と木葉の怒鳴り声など気にせず、木兎は店を飛び出した。
3人は再び顔を見合わせ、彼の姿を追いかける。
木兎は先ほどのイチョウの葉を見て思い出したのだ。
思い出の場所を。
初めて彼女を家に招きいれた日、猫を怖がる彼女の腕を引いて外へと連れ出した。
猫を腕に抱いて向かった先はイチョウが咲く公園。
木兎が飼っていた猫はその場所がお気に入りだったのだ。
落ちてくるイチョウの葉と戯れる猫の姿を二人で見ていた。
そこで初めて動物を見て笑う彼女の顔を見たのだ。
『猫ちゃんイチョウが好きなんだね』
『俺もイチョウ好きなんだ。お前の髪の毛もイチョウみたいできれいだと思う!』
思い出した。
そうだ、彼女の髪の毛は人と違っていた。
金色の髪の毛だった。
それを彼女は気にしていて、それを聞いて俺はその場所に連れて行ったんだ。
変じゃないって言いたくて。
どうして忘れていたのだろうか。
大切な約束。
公園に着くころにはすでに息は上がっていた。
「年取ったもんだな、俺も」
木兎は額から流れる汗を拭って、公園の中に入る。
彼女の姿を探すが、見当たらない。
何年も約束を投げ出したんだ。
普通だったらもうあきらめている。
「あ……」
普通だったらもうあきらめている20年前の約束。
だけど、そこに彼女はいた。
時計を気にしている、ブロンドの髪の毛の女性。
記憶のなかの少女が本当に目の前の女性か怪しくて、不安で、木兎はただただ見つめることしかできないでいた。