第2章 0
▼視点:澤村大地
「折角のお昼休みに呼び出してすみません」
こちらに向き直っての開口一番。
顧問の武田先生がいつものように折り目正しく俺に話しかけてくる。
「いえ」
短く返し、俺は先生に気づかれないように、こっそりと溜め息をこぼした――今日は何だ?
「午前中に学校側に苦情が来たようです」
「苦情、ですか…」
オウム返しに答えつつ、俺の脳裏に浮かぶのは4つの顔。
田中、西谷、日向、影山。
この手の話に大抵絡んでくる後輩たち。
気の良い連中だし、試合中は本当に頼りになるが…。
(まったく)
毎度のことながら武田先生に迷惑を掛けている事実に、正直、俺は少し頭が痛い。
『失礼します』
不意に、聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。
話の途中だったが入り口を一瞥する。
思ったとおりの人物。1年のマネージャー、だ。プリントの束を抱えていた…クラスの用事か。
俺と同じくこの件で呼び出されたわけではないと察し、俺は武田先生へ視線を戻して話を再開した。
「どんな苦情ですか?」
「今朝方、騒がしく登校していた生徒がいた…とのことです。どうもそれが――」
「…日向と影山ですか」
「どうやら」
『あの…』
割って入った声。
俺と先生は声の主を見やる。
「さん」
『すみません、話、聞こえちゃって…』
おずおずと進み出てきた彼女は、武田先生に再度はっきりと『すみません』。
『私、その現場に居合わせてました!』
勢い良く、90度腰を曲げての告白。
俺は先生と目で会話する。
一瞬後には、どちらともなく苦笑していた。
「お前が謝るようなことじゃないだろ、」
「澤村くんの言うとおりです。…日向くんと影山くんには僕から注意しておきますね」
穏やかに武田先生が話を終わらせると、待っていたかのような予鈴。
俺たちは揃って一礼し、足早に退室する。
『先輩、本当にすみませんでした』
傍らの律儀な1年は、そのまま教室に戻らなかった。心配そうに俺を仰ぎ見る。
まったく。
問題児たちとは別に、俺はこの後輩も少し心配だ…気にしすぎる。
「お前が謝る話じゃないさ」
『でも…。私、従兄弟が先輩と同じようにバレー部の主将なんです。だから、大変さ、わかってるつもりでいたのに』
初耳だった。
その従兄弟なる人物が、俺は俄かに気になり出した。