第1章 2
▼視点:日向翔陽
「いってきまーす!」
いつものように玄関を飛び出し、愛用の自転車にまたがる。山を登り坂を下り、こぎ続けること三十分。ようやく見えてきた小高い丘にあるのが烏野高校だ。
少し疲れたので休憩に、と古びた坂ノ下商店の前で止まる。ふと、誰かに呼ばれた気がして振り向くと、そこにはブンブンと手を振る同級生の姿。
『日向ー、おっはよー!』
「あ、さん、はよー!」
おれの隣に立ち止まるさん。少しの風と共に、ふわりといい匂いがした。
…じゃなくて!さんはバレー部のマネージャーで、おれと同じクラス。いつ見てもかわいい愛くるしい笑顔に見惚れていると、さんが言った。
『家の窓から日向見えたから走ってきたの。あ、どうせだから一緒に行こうか』
「おう!」
自転車を押しながら、坂を登る。昨日観たテレビがどうだとか、今度の小テストがノー勉だとか、とりとめのない話をする。
そしてちょうど校門が見えてきた頃、後ろから猛烈な勢いで迫ってくる何かに気が付いた。ドドドドドッという音の正体は影山。
「日向ァ――――――ッ!!」
「ゲッ影山!?ごめん、さん!」
『え、ちょ、日向!?』
さんの制止も聞かず、おれはチャリにまたがり猛スピードでこぐ。ギュンッと加速して一気に校門に滑り込む。おれと影山が校門に着いたのは、ほぼ同時だった。
「ふっふっふ、おれの勝ちだね~」
「ふざけんな、俺に決まってるだろ」
「影山よりおれのが早いしぃ」
「んだとコラ!?」
ぎゃーすか言い合いをするおれたちに、さんが苦笑しながら言った。
『日向のがちょっと早かったかな』
「ヤッター!」
「クソ、これで同着か…」
おれと影山の"どっちが先に着くか競争"は今のところ引き分け。だいたい今日みたいにギリギリで勝敗が決まる。
『っていうか、二人とも!朝くらいもう少し静かにしようよ…ね?』
「「っうす///」」
首を傾げて笑うさんがかわいかったので、思わず赤面する。隣の影山を見ると、耳まで真っ赤。
「おやおや、影山クン?」
「るせぇ、日向、黙れやボゲッ!」
『影山、ボキャブラリーが…』
騒がしいままに、おれたちは朝練を行っている体育館へと向かった。