第27章 小さな太陽と大きな背中
ボールはゆっくりと菅原先輩の手元へと落ちていく。
菅原先輩も、きっと東峰先輩に···そう考えてると思う。
菅 ー もう1回、オレにトスを上げさせてくれ、旭 ー
ずっと···心に秘めていた思いを伝える事が出来たんだろう。
真剣に言う菅原先輩が、ほんのちょっとだけカッコよかった。
···ほんのちょっとだけ、ね。
だけど今、東峰先輩は菅原先輩に···トスを呼んではいない。
影「菅原さんっ!もう1回!!···決まるまで!!」
影山···
月「ドSだねぇ···王様」
月島君は普段と変わらず···だね。
影「あぁっ?!」
こっちも変わらずでしたか。
体制が苦しい時や、流れを掴みとりたい時···ラストボールを託したくなるのが、エース。
でも、トスを呼んでいない東峰先輩に···
旭「スガーーーーーー!!」
···?!
一瞬、息をするのを忘れそうになった···
東峰先輩が···トスを呼んでる···
ここにいる烏野の誰もが、それぞれ感慨深く見守っている。
そして、誰よりも瞳を揺らしたのは···菅原先輩···
その1球を、大事に、ゆっくり···東峰先輩にトスを上げた。
ただただ、真剣に東峰先輩の目がボールを捕らえる。
さっきとは違う、迷いのない足取り。
東峰先輩のひとつひとつの動きか目が離せない···
キュッとシューズが音を立てながら、東峰先輩が高く高くコートの空へ飛び立つ。
私がどんなに手を伸ばしても届かない、空へ。
スパイクモーションさえ堂々としていて、あの自信なさげだった姿からは想像もつかないくらいの強烈な一撃を放つ。
影「グッ···重ッ···」
そのスパイクは影山の手を弾き、勢いを変えることもなくコートへと沈んで行った。
やっと···やっと東峰先輩に繋がった···
みんなそれぞれが様々な思いを乗越えて、ひとつに纏まった瞬間。
なぜだか胸が熱くなって、どんどん視界が滲んで行く。
私はそれを誰にも気が付かれないように、肩口で汗を拭うフリをして···涙を押さえた。
エース、復活。
ここからまた、新しい烏野のスタイルが動き出すんだ。
私もまだまだ、頑張らないと。
そう思いながら、動きだした歯車に希望を乗せた。