第27章 小さな太陽と大きな背中
桜「紡、足出して」
お風呂から上がりソファーにダイブすると、それを待ち受けていたかのように桜太にぃが目の前に座る。
『···足?』
桜「そう、足。さっき澤村君からも聞いたけど、今日は随分と張り切ったみたいだからね。だから、完治したとは言ってもケアはちゃんとしとかないと」
あぁ、そういう事か。
『それくらい、自分で出来るから大丈夫だよ?』
ソファーに座り直し、両手で足首を包む様に押さえて見せる。
桜「普段はそれでもいいんだけど、今日は酷使したみたいだから俺がやるよ。これでも一応、プロの端くれだから」
慧「そ~んな事言って、構いたいだけじゃねぇの?」
桜「···慧太には、後でスペシャルメニューで肩凝りを治してやる」
真顔で慧太にぃに向けた言葉を聞いて、過去の記憶から、それが決して心地よい物ではないだろうと結論を出す。
うわ···それ痛そう。
慧太にぃ···ご愁傷さまです。
慧「いや、謹んでご遠慮させて貰うわ」
まったく慧太は···なんて言いながら、桜太にぃが足首の可動をチェックしながら念入りにほぐしてくれる。
桜「そう言えば、エーススパイカーの話は落ち着いたの?」
『え?』
桜「紡が言ってた話の事だよ?」
『あ···うん、まぁ何とか』
まだ、完全に解決した訳じゃないけど。
慧「何だ?なんか歯切れが悪いな。問題でもあんのか?」
『そうじゃないけど、あと···もう少しだけ時間がって感じかなって』
東峰先輩は、きっと戻って来てくれる。
そう、信じたい。
信じて待っていたい。
慧「ふ~ん···ま、アレだ。押してダメなら引いてみろってヤツだ」
桜「また慧太はそんな適当な···でも紡。グイグイ押してばかりじゃ、押すことに必死になって大事な事を見落とす事もあるから、何事も慎重に周りをよく見なきゃダメだよ?」
『分かってる···』
分かってるんだけど、それでも。
時間を早めてしまいたい···
少しでも早く、一日でも早く、1時間でも早く。
新しいチームの歯車が、完全に動き出してしまわない内に。
今だったら、まだ···間に合うから。
桜「はい、終わり。軽くテーピングしといたから、朝になったら取っていいよ」
考え事をしている内に、桜太にぃが手早くいろいろしてくれていて、その処置も終わっていた。
『ありがとう、桜太にぃ』
