第4章 扉のむこう
~岩泉side~
大会中のコートに、ボールが弾む音が鳴り響く。
俺は、ハッキリ言って自分の出身校の女バレの試合を見たことは無かった。
女子バレー部とはいえ、なかなかいい試合はしているとは思う。
それは、自分の彼女が試合に出ているからとか、そういう欲目などはなしに・・・だ。
「あぁ~、紡ちゃんまた狙われてるね」
隣に座る及川が呟いた。
そう。
この試合始まってから紡はセッター潰しと言わざるを得ない攻撃に、バタバタと流されていた。
もともとはリベロをしていただけあって、ちょっとやそっとの攻撃にはうまくレシーブで対応する事はできていた。
しかし・・・だ。
セッターである紡が相手からのボールを最初に受けてしまっては、ルール上、スパイカーにトスをあげることは出来ない。
「あっ、また紡ちゃんがっ!なんで紡ちゃんばっかり!及川さんが代わってあげたいよ~」
「黙れグズ川」
恐らく相手チームも、ここまで勝ち上がってくるためには、それなりに研究しているのは当然。
今までの試合を研究しているなら、セッターが1人しかいない状況のチームの研究は簡単だろう。
ファーストタッチでセッターにボールを触らせてしまえば、次にうまく繋がる可能性は低い。
飛びぬけて上手いスパイカーがいるわけでもない中でベスト4まで上がってこれたのは、他でもなく、紡がうまく立ち回ってこれたからだろう。
あと1点。
それが決められてしまえば、試合が終わり敗退が確定する。
・・・頑張れ。
そう願った瞬間に、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
観客席に挨拶をし、控え室に戻るアイツの小さな後ろ姿を、何とも言えない気持ちで俺は見送っていた。
「岩ちゃん、負けちゃったね」
能天気に呟く及川を無視して立ち上がる。
「ちょっと岩ちゃん聞いてる~?無視とかされたらオレ泣いちゃうよ?」
「勝手に1人で泣いとけよ」
「冷たいなぁ、岩ちゃんは」
「うるせぇ黙れグズ川」
そんなやり取りをしながら、俺は歩きだした。
「あれ?岩ちゃんどこ行くの?決勝まで見ないの?」
「あぁ?うるせぇ、便所だ、便所。着いてくんな」
後ろで何か言いたそうな及川を置き去りにして、俺は観客席を離れた。