第26章 交差する想い
答えはあってるんだけど・・・なんて言いながら、本来使うべき公式を教える為にペンとメモ用紙を取り出して書いて見せる。
「ほら、ね?こっちの方が楽に計算できるでしょ?」
俺からしたらなんて事ないことを、凄く興味津々に頷いて、今度はメモ用紙を見つめていた。
どれだけ見てるの?なんて笑うと、城戸さんは俺の字がキレイだからと褒めてくれた。
でも、それは城戸さんもだろって笑いあって・・・
たまには、こういう時間を過ごすのも悪くないと思う自分がいて。
・・・彼女、かぁ。
今まで1人もいなかった訳じゃないけど、それこそ手を繋いで帰る・・・くらいで終わってしまったし。
こんな風に近い距離で話したり、のんびりした時間なんてなかったし。
チラリと目線を動かすと、さっきの問題と向かい合っていた城戸さんと目があってしまい、微笑まれた。
『これからも、いろいろ教えて下さい、縁下先生?』
「先生はやめろって」
静かな部屋に、俺達の笑い声が響いた。
「さてと、城戸さんの元気な笑顔も見れたし
・・・あ!忘れるところだった!」
そう言いながら俺は立ち上がり、少し照れながらも城戸さんの側に立った。
『な、何でしょう・・・?』
「ス・・・スガさんから頼まれたんだよ。だから、その・・・決して俺の意志じゃないからね!って事で、はい!ギュー」
『え?えぇっ?!』
両手を広げてスガさんが俺にしたように、城戸さんを抱きしめる。
どうすんだよ、この状況・・・
城戸さんは俺の行動にビックリし過ぎて、固まっちゃったじゃないか。
「・・・スガさんが、ここへ来たら自分の代わりにハグを届けて来いって。で、スガさんが俺を1回ギューって・・・」
何となく誤解のないように言い訳をしたくて今朝の出来事を話すと、城戸さんは何だか難しい顔をして眉を寄せた。
『・・・・・・・・・』
「いま、想像しただろ?」
そう言うと、城戸さんが腕の中で曖昧に笑う。
絶対、想像してた顔だよ・・・その曖昧な笑いは。
「いきなりスガさんにハグされた俺の驚きも分かってくれよ」
『・・・ですよね。だけど、それをちゃんと実行するあたり、縁下先輩は真面目なんですね』
そう言って腕の中で、俺を見上げる城戸さんは
クスクスと笑っていた。
「届けないとさ、俺がスガさんに抱きしめられ損だろ・・・」