第7章 嵐の足音
『いえ、岩泉先輩とは、その・・・そんな約束はありません・・・』
気まずそうにオレから視線を外しながら、紡ちゃんが言った。
えっ?どういうこと?今日ってクリスマスだよ?
岩ちゃん!こんな大事な日に紡ちゃんを放ったらかしって!!
あれ?でも、こんな日にホントに約束あったとしたら、さすがに岩ちゃんだってうかれちゃうハズだよね?
でも、今日はメッッッッチャクチャ機嫌悪かった。
もしかして・・・ケンカでもしちゃったのかな?
う~ん・・・と1人でモヤモヤしていると、紡ちゃんが
『じゃあ・・・私はこれで』
なんて言って立ち去ろうとしていたから、オレは慌てて紡ちゃんの腕を掴み、引き寄せた。
「岩ちゃんと約束ないんなら、オレとデートしない?」
咄嗟にそう告げると紡ちゃんは、« はっ?»なんて言って、あからさまに怪訝そうな顔をする。
ちょっと紡ちゃん・・・そんなわかりやすく表情作られると、さすがのオレでもちょっと傷ついちゃうよ?
岩ちゃんとの約束はなくても他に用事があると言って断りを入れてくる紡ちゃんに、オレはちょっとズルい物言いをして更に引き止めた。
それを言うと諦めたのか、他の用事までのタイムリミットを守るという約束をして、その後の時間を一緒に過ごした。
ブラブラとショップに入ったり、軽くウィンドウショッピングしたりしながら街を歩く。
ショップでは、凝り固まったような難しい顔をしてたのに、やっと笑顔を見せてくれたし、やっぱり女の子は笑顔でいて欲しいしね。
特に紡ちゃんは。
あちらこちらブラついてると、少し日が暮れかけてきた。
相変わらずオレの半歩後ろを付いてくる紡ちゃんを振り返ると、両手を口元で擦り合わせ« はぁ~ »っと息を吹いていた。
「紡ちゃん、ほら・・・」
オレが右手をヒラヒラさせながら差し出すと、キョトン?としながら« なんですか?»なんて言う。
「そんなに警戒しないでよ?」
そう言って紡ちゃんの手を掴むと、彼女の指先はほんのり赤くなり冷たくなっていた。
「こんなに手が冷たくなってるじゃん。ほら、これで暖かくなるでしょ?」
オレは繋いだままの手をコートのポケットに入れた。
ホントに暖かく感じたのか、紡ちゃんは一瞬だけ、ほわんとした、ほっとしたような表情を見せた。
でもそれも束の間のことで。