第21章 背中合わせの2人
桜太にぃが来てくれて、手際良くあっという間に手当ては終わってしまう。
私も講習会に参加したり、桜太にぃ達から教わったりしてテーピング巻きをやっていたけど、さすがに長年ずっとそれをやって来た桜太にぃの方が、的確に出来ていた。
桜「はい、山口君のもこれでいいかな?どう?」
桜太にぃに言われ、手指を軽く動かして不自由さを確認した山口君はお礼を述べていた。
武「城戸さんは、お医者様だと伺いました。さすが本職の方は全て手際良く丁寧な手当てですね」
武田先生は桜太にぃにそんな事を言って、いやぁ、ホントに凄いなどと繰り返している。
桜「先生やめてください、本職って言っても今は小児科勤務ですから」
武「でも、ドクターになるには、1通り学ぶのでは?僕は顧問と言えど名前ばかりで指導に関しては全く出来ませんし、立派なご職業ですよ」
桜「そう言われると、何だかこそばゆい感じがします」
大人同士、おかしな話をしながら笑いあっている。
そんな2人を見ながら、私は私で練習しているみんなのボール拾いをして右に左にと走り回っていた。
清「城戸さん、ちょっと手伝ってくれる?今のうちにみんなのスクイズ作っておきたいから」
『いま行きます!』
清水先輩の手伝いをすべく、みんなのスクイズを集めながら残量が気になり、ふと疑問が浮かんだ。
それぞれが空になっていたり、少し残っていたり、人によっては半分くらい残っていたり・・・
『あの、清水先輩?みんなのスクイズの中身って、味の調節とか清水先輩が全部把握してるんですか?』
清「特に何も言われてないから、全員同じ物を作っているけど、どうして?」
2人でスクイズを入れたカゴを運びながら、清水先輩は首を傾げた。
『なんか、人それぞれ残量が違うなって思ったので』
清「そう言われると、そうかも知れない。もしかして個人個人で飲みやすい濃さとかあるのかしら」
『でも、誰も何も言わないのだったら、今まで通りでも・・・』
ほんの数日間のお手伝いしか決めていない私が、ずっとみんなのお世話をしてきた清水先輩に意見するのは気が引けて、それ以上は言うのをやめてしまった。
清水先輩も黙って何かを考えているようで、もしかしたら私がそんな事を言ったから、気を悪くしてしまったかと思い気まずくなってしまった。
余計なこと、言わなきゃよかった・・・