第20章 心の拠り所
私たちと入れ替えに体育館に入ったメンバが、午後の練習を始めた音が聞こえる。
澤村先輩から了承を得て、私達3人はお弁当を広げていた。
驚いた事に武田先生は自炊生活で、お弁当も自作だと言うので、おかず交換などしながら同じ時間を過ごす。
山口君はお箸を使うと指が痛むのか、それとも練習の音が気になって落ち込んでいるのか食が進んでいない。
・・・さっきケガした事で、かなりへこんでたしなぁ。
『山口君、もしかして指、痛い?』
山「え?あ、まぁ・・・少しだけ・・・」
・・・やっぱりそうか。
利き手の方だし、何かしようとすれば動かしてしまうから痛みが出るのは当然といえば当然か・・・
そう思い、私は自分のお弁当の蓋を閉じて山口君の斜め前に座り直した。
『山口君、お箸貸して?』
山「えっ?箸?」
うん、と頷いて、その手から箸を受け取る。
『その手じゃ食べるの大変でしょ?だから、食べさせてあげる』
山「えぇっ?!そ、それはさすがにちょっと・・・恥ずかしいというか、えっと・・・」
『大丈夫だよ。みんな練習してるから見てないし、ね?武田先生?』
武「そうですね、困った時はお互い助け合いが必要ですから。何なら僕もお手伝いしますよ?」
『どうする?私じゃ嫌だったら、武田先生と交代しようか?』
私がそう言うと、山口君はパッと顔を上げた。
山「嫌じゃないけど。その、は、はず、恥ずかしいかな、なんて」
躊躇していたのはそこ?なんてツッコミながら笑い、山口君の口元にご飯を運ぶ。
『じゃあ、はい、どうぞ?』
最初の内は抵抗があったのか迷いながら食べていたけど、それも3度、4度と重ねて行く内に自然な形に見えるようになった。
『山口君さ、いま、体育館のボールの音が遠く感じてるでしょ?』
モグモグと口を動かす山口君に、そう聞いてみる。
山「うん・・・何となくだけど。でも、なんで?」
聞かれた意味が分からず、真っ直ぐに私を見返してくる。
『私も、遠く感じてるから。かな?』
続けて箸を運びながら、私は答えた。
『ケガとかして練習外されるとさ、ケガした自分を凄く責めたり、そんな風にいじけてる自分が情けないって思ったりするから。だからもしかして山口君も、今そう感じていてこの体育館の扉が凄く厚くて、みんなの存在が遠く感じてるんじゃないかなって?』