第19章 傷痕
『でも、どうして?』
急に替えのシャツを差し出されて、とりあえず受け取るも、疑問が残る。
『山口君はもう着替えないの?』
山「さっき着替えたし、オレは午後は見学だから。それに、その・・・城戸さん気がついてないかも知れないけど・・・み、見えそうでハラハラするから・・・」
『はい?』
言いながら山口君が顔を横に向けて、指だけを私に向ける。
見えそう・・・って?
指し示された方向を、視線で追って行くと私が着ているジャージのファスナーが、最初よりも下がっていた。
おわっ!
私は無言でファスナーを上まで閉めて、山口君を見ると耳まで真っ赤になっていた。
『山口君・・・もしかして、見た?』
山「ち、違っ、見てたわけじゃないよ!・・・ちょっと、だけ、見えちゃったって言うか・・・その、チラッとだけだから!」
慌てながら言い返してくる山口君がおかしくて、私は思わず笑ってしまった。
『教えてくれてありがとう。見られたのが山口君だけで良かったよ』
山「いや、だから見ようと思って見たわけじゃないから!」
赤くなりながらもそっぽを向いて反論する山口君は、とても素直で優しい人なんだなと感じた。
『ありがとう、遠慮なくお借りします。いまこっちで着替えちゃうから、覗いたらダメだよ?』
山「そ、そんなこと絶対しないよ!」
両手で顔を隠し、頭が飛んでいってしまいそうな程にフルフルと振る山口君を横目にしながら、私はさっきと同じ様にカーテンの陰で着替えを済ませた。
うわぁ・・・やっぱサイズ大きいなぁ。
置いてある姿見に映る自分の姿を見て思う。
それもそうだよね・・・ずっと座っていたりしたから分かりにくかったけど、山口君だってそれなりに高身長だし。
前に縁下先輩から上着を借りた時も、これ位のサイズ感だった気がする。
改めて、運動部男子の背の高さを羨ましく思う。
私にも、あと少し身長があったらなぁ。
そんな事を今さら考えても背が伸びる訳じゃなく、鏡に映る自分に苦笑してから山口君の所へ向かった。