第5章 霹靂
「紡・・・」
俺は座ったまま、紡の手をそっと握りしめた。
「ゴメンな・・・そして、こんな俺に同じ時間を過ごさせてくれて、ありがとう・・・紡の事は、今でも大切だと思っている・・・」
紡は何も言わなかった。
きっと言いたい事はたくさんあるだろう。
お互い瞬きもせずに、遠くを見つめていた。
やがて、紡が俺の手をそっと握り返すと呟くように言った。
『ハジメ先輩の全てが終わるまで・・・待っている事はできますか?』
これから先、どれだけの時間を要するのかも分からない流れに、紡を巻き込む訳には行かない。
俺は何も言えず、黙ったまま首を振った。
「ゴメン・・・」
それが精一杯だった。
すると紡は悲しそうに微笑みながら立ち上がり、俺と一緒にいるだけで嬉しかったと言ってくれた。
そして俺が言葉を交わそうとすると、また被せるように話し出し、
『この先もし、ハジメ先輩が新しく時間を共有出来る誰かと出会ったら、迷わず進んでください。ハジメ先輩がその誰かを大切にするってことは、私のお墨付きですから』
そう言われて、俺はハッと息を飲んだ。
紡は待つことを許されず、なのに、これから先を考え、俺に前に進めと後押しする。
そして、最後のわがままだと言ってギュッとしてくれと言う。
紡・・・お前は強いんだな・・・。
俺は迷った・・・今まで何度そうしたかったか分からない。
けど、自分を押さえつけ、それをしてこなかった。
大事にしていきたい、そう言えば聞こえはいいが・・・俺は怖かったんだ・・・でも今は・・・
『なぁん・・・て・・・え・・・』
紡が俺に背を向けた瞬間、俺は紡を腕の中に捉えた。
甘い香りが俺の心を揺さぶる。
『びっ・・・くりしたなぁ~』
そう言いながら俺の腕を解いて、すり抜けた。
俺は思わず紡の腕を掴み、もう1度抱き寄せた。
今度はすり抜けないように、しっかりと抱きとめた。
こんな小さな体のどこに、あれだけの強さを持っているんだ。
俺はこの小さな温もりを忘れないように、ギュッと抱きとめた。
少ししてから紡を解放すると、いつもの様に紡の頭をポンポンっとして、終わりにしようとした。
・・・が。
俯いてうっすら涙を浮かべている紡を見ていると俺の理性が外れそうになる。
「紡・・・」
そう呼びかけると、俺は紡の頬に口付けた。