第35章 閉じた思いと、叶わぬ想い
デートって言われたら、そうなのかもだけど。
急に手を差し出されても、どうするのが正解なのかって事に戸惑いを隠せない。
でも、矢巾さんの理想とするものがそうなら···約束は約束だし···
おずおずとした動きで、引っ込めたばかりの矢巾さんの手をそっと掴む。
矢「つ、つーちゃん??」
『矢巾さん理想の、デート···ですから』
指先だけ繋いだカタチではあるけれど、なんとなくそれが精一杯な感じがして目を逸らしたままポツリと言った。
矢「い···行こうか!」
指先だけ繋いだ私の手を、矢巾さんがギュッと握り返して歩き出す。
その感覚は···前の時とは全然違くて。
ちょっとだけ、他の人と方向性が違う強引さがあるけど。
でも···なんか···それはそれで、嫌ではなかった。
館内へと入り、手洗いを済ませて飲み物を買い上映される部屋へと入る。
始まるまでにポツポツと人が増え始め、それまでは矢巾さんといろいろなおしゃべりを楽しみながら過ごした。
チケットどころか、パンフレットや飲み物までも矢巾さんが支払い、きちんと半分お金を渡そうとしても受け取っては貰えず···結果、それに甘える形になってしまった。
矢巾さんの方が先輩だし、ここはもう無理にお金を渡すのはやめとこう。
その代わり、また別の何かでお返しをすればいいかな?なんて思ったし。
そう思いながら、私には飲み切れるだろうかという位のカップに付けられたストローに口付ける。
『あっ···美味しい···』
矢「ん?」
『矢巾さん、これ甘いのにサッパリで美味しいです!期間限定って書いたあったから選んだんですけど、矢巾さんもひと口どうぞ?』
いつもの部の感じで自分の飲み物を差し出してみれば、矢巾さんはちょっとだけ躊躇いながらもストローからひと口飲んだ。
矢「ホントだ···オレも同じのにすれば良かったかなぁ?あ、良かったらこっちも飲む?」
ほら、と差し出されて、特に躊躇うこともなくひと口貰う。
『これも美味しいですね!フレーバーコーヒーだけど苦くないし、私でも飲めますから』
言ってから、やっと···気付く。
私···もしかして、とんでもない事しちゃった?!
矢「今更だけど、つーちゃんって結構···大胆」
それを聞いて、急激に恥ずかしさが込み上げる。
『えっと、ご、ごめんなさい。つい···』
