第34章 スイッチ・オン

桜太にぃの細かい指示を受けながら、何とか同点まで漕ぎ着けてはいる。

けど。

あと少しの追い込みまでが···遠い。

肩口で汗を拭いながら周りを見れば、きっとこれまでこんなに真剣になった練習試合はなかったんじゃないか？と思えてしまうような疲労の色が見える。

って、ちょっと私も失礼かもだけど。

だけど、今までは相手のネームバリューとか、８強だの４強だとかいう力の差だけを自分達と比べては、勝てないのは仕方ないとか諦めてたんだと思う。

その諦めの速さの中で燻っていた、本当は勝ちたいっていう思いに桜太にぃや慧太にぃが火をつけた結果が···


ー 勝ちたい ー


···って思い。

私も、自分でそこに参加するって決めたんだから全力を尽くしたい。

誰よりもボールから目を離さずに、誰よりも１歩速く動き出す。

ネットの向こう側から大きく振りかぶられる腕。

···来る！

打ち放たれたボールが勢いを乗せたまま真っ直ぐに向かってくる。

けど、これは···


『アウト！！』


ボールの軌道を見切って出しかけた手を引っ込める。

変に手を出していたらワンチ取られかねないし。


ー ピッ！ ー


道｢ナイスジャッジ！！｣

ハジメ先輩のホイッスルを聞きながら、バッとラインズを見回してみる。

松川さんも、金田一君も···大丈夫、ちゃんと見てくれてて、アウトを取ってる。

今ので、こっちに得点が入って。

あと、１点。

あと１点取れば、このゲームは終わる。

そしたら何より先にシューズを履き替えて···じゃないと···

｢はい、ボール。次は城戸さんがサーバーだよ？｣

差し出されるボールに、ハッとして気持ちが戻る。

『すみません、ありがとうございます』

ボールを受け取り、その感触を確かめながら大きく息を吐いた。

これが、この１本が···

きっと私が女子バレーのコートに立つ、最後。

そしたら私は、烏野男子バレー部の為に清水先輩と裏方を死ぬ気でフォローします。

観覧通路を見上げて、澤村先輩と菅原先輩の姿を探す。

ふたつ並んだ見慣れた姿を見つけて、緊張感を手放さないまま小さく笑って見せた。

いつもの様にボールをついて、ポンッとひとつ叩く。

大きく深呼吸をしたあと、前を見据えれば。

ー ピッ！ ー

ホイッスルが鳴り響いた。