第32章 不協和音
~ 澤村side ~
岩泉が紡を見る時の、柔らかい表情。
そして···紡が岩泉を見る時の表情。
どっちの表情も、なんとも言えない感じで。
ジャグを持って出て行く後ろ姿を見送りながらも、チクリ···と、胸が痛んだ。
もしかしたら、まだ···とか思うと、それはそれで心苦しくなる。
その息苦しさに大きく息を吐いて、目を閉じた。
桜「澤村君?」
ぽんっと肩に手を置かれ目を開ければ、俺の隣には桜太さんが立っていて。
桜「紡は、少し前より···ずっと強くなったと思うよ。たくさん笑うようになったし、自分でいろんなことを考えるようにもなった。それでもまだまだ、俺達に甘えてくることは多いけど···でも紡がそんな風に変われたのって、俺は澤村君達のお陰かな?とか思うんだけど、どう?」
「いえ、俺は別に···何も」
実際、俺やスガよりも影山の方が···
桜「紡がバレーを始めたのって、母さんがまとめて同じとこ入ってる方が手がかからないからって言うのもあるけど、実は俺と慧太が紡から離れたくなかったからなんだよ」
「えっ?!」
桜「どこに居ても紡と一緒に居たくて、母さんに頼み込んだ。練習中も合宿もいつでも一緒で、甘えられたり甘やかしたり···そう言うのが楽しくてね」
懐かしむように微笑みながら、桜太さんは続けた。
桜「まぁ、小学生バレー時代の紡は烏養監督にベッタリで、紡を烏養監督に···ちょっと取られた感があったんだけど。俺達が卒団してからも紡はバレーを続けていてくれたけど、突然辞めてしまって。その理由はきっと、澤村君達の方が···詳しそうだね」
紡がバレーを辞めた理由···それは···
「知ってます···けど」
桜「俺はなんとなくは気付いてるけど、紡が話したくないなら無理には聞いてないんだよ。なのに、君達は知ってる。これがどういう意味を成してるか、
分かる?」
理由が理由だから、家族には言えない···とかじゃないのか?
桜「家族には言えない秘密もある。それは紡だけじゃなくて俺や慧太も同じ。だけど、それを話せるのは···君達を信じてるからだと思うよ」
「俺達を、ですか?」
桜「そうだね。1人ではどうにも超えられなかった壁を前にしてもがいてた筈なのに、乗り越えることが出来た···君達の存在が、立ち止まっていた足を前に進ませたんだ」