第32章 不協和音
今日は全員トス上げって桜太にぃが言ってたのに。
ある程度の所まで来たら急にこんな事を始めるんだもんなぁ。
しかも、こっち側のコートって私と菅原先輩と縁下先輩の3人だけとか、むちゃくちゃでしょ。
道宮先輩達のいるコートから打ち込まれるボールをひたすらレシーブして、トス上げて、軽くスパイク···
桜太にぃはこっち側のルールはなしって事で、誰がレシーブしてもトス上げても、スパイク打っても関係ないって言ってたけど。
それを3人だけで回すとか、正直···結構しんどい。
菅「紡ちゃん!」
『はい!』
向こう側から打ち込まれてくるスパイクをレシーブして、縁下先輩へと繋ぐ。
それを縁下先輩が上げて、菅原先輩が打ち込む。
···そもそも縁下先輩はセッターじゃないのに、こういうのって何の練習になるんだろう。
桜「菅原君チームの3人は誰がどこのポジションをやってもいいから。って言っても、紡はスパイクはしなくていいよ」
慧「打たなくていいんじゃなくて、そもそも打てねぇだろ?届かねぇんだから」
『うるさいよ』
桜「また慧太は···とにかく3人で上手く女子チームを撹乱して?」
桜太にぃは道宮先輩達を撹乱してって言ってた。
撹乱···
男バレのネットの高さじゃ、絶対届かないんだけど···
こっちの高さなら、もしかしたら···
縁「城戸さん!上げて!」
道宮先輩が打ったスパイクを縁下先輩が丁寧にレシーブする。
そのボールはゆっくりと放物線を描いて、いま···私の所に落ちてくる。
···試しにアレ、やってみようか。
今だったら、向こうのチームはみんな私が菅原先輩か縁下先輩にトスを送るって思ってる。
その証拠に、私はフリーになってる。
やってみるなら、今しかない!
まだ高い位置にあるボールに合わせて、数歩下がり···ちょっとだけ勢いをつけて床を蹴る。
今まで練習なんてした事ないから、影山や及川先輩、それに研磨さんがやってたのを真似っ子するだけだけど。
女子のネットの高さなら、何とかなるんじゃない?!
道「ツー?!」
私がやろうとしてる事に気づいた道宮先輩が声を張るけど、ボールはもう···私の指先まで···
って、あれぇ?!
菅「紡ちゃん?!」
ほんの少し指先に触れたボールが、軌道を変えて私の頭にポーンと落ちた。