第31章 ステップアップへのチャンス
『け、研磨さんっ?!』
日向君に渡そうと袋から出したクッキーを、研磨さんが私の手を掴んで引き寄せ、そのままパクリと食べた。
日「あーっ!研磨ズリぃ!!自分のあるじゃんかぁ!」
そ、そそそそこじゃないって日向君!!
研「だって···貰ったのから食べたら、後で食べる時···減るから」
それも違···わない事もないけど!
黒「甘いなぁ、研磨···オレだったら、ちゃっかり口移しを···っとと、危ねぇ危ねぇ···お嬢ちゃんの保護者がギラギラとオレを見てる···」
私達のやり取りを見ていたクロさんが会話に加わったと思ったら急に口を濁す。
私の保護者?
クルリと振り返れば、そこには澤村先輩と菅原先輩が腕を組んで立っていた。
澤「保護者だなんて···普通のチームメイトですけど?」
黒「どーだか?」
···また始まった。
直「黒尾!早くしないと新幹線乗り遅れるだろ!」
黒「あらま、残念だこと。もうちょっと楽しめると思ったんだけどねぇ」
直井コーチの一喝で、その場は何とか収まった。
黒「ま、その内また一緒になる事もあるだろ。お宅のコーチと顧問が、ウチの監督となんだか色々と盛り上がってたしな。じゃ、行くぞ研磨」
研「うん···紡?ちょっと···」
研磨さんに呼ばれて顔を上げた···瞬間。
『えっ?!』
日「あぁーっ!!」
『い、いま?!おでこに?!なんで?!』
研「バイバイ、紡···またね」
一瞬の出来事で避けようもなかった事に、ひとり慌てふためく。
黒「うわ···研磨ってそういうズルい事すんの?んじゃ、オレもオレも~」
ニヤリと笑って今度はクロさんまでが私のおでこに唇を寄せた。
澤·菅「「なっ?!」」
黒「じゃあな、お嬢ちゃん」
したり顔で軽く手を上げながらクロさんは歩き出す。
その赤いジャージの集団が小さくなるまで、私は固まったまま動けなかった。
澤「スガ···タオルだせ」
菅「···御意」
菅原先輩からタオルを受け取った澤村先輩が、遠慮もなくゴシゴシと私のおでこを擦り取る。
『あたっ!いたたたっ!大地さんもスガさんも、何するんですか!!』
「「緊急消毒!」」
こんな時でも息ピッタリの返答に、私は日向君と同時に吹き出した。