第29章 ネコと呼ばれる人達
武「では、ちょっと確認してみましょうか」
そう言いながら先生がドアを軽くノックする。
「せ、先生?!」
もし寝てしまっているなら、そのノックで起きてしまうんじゃ?と慌てながらも小声で止めに入ると、先生は大丈夫なようですね、と小さく笑った。
武「城戸さんのお兄さんから頼まれているんですよ、僕。城戸さんは寝付いてしまうまでは明かりがついていないとダメだから、もし可能であれば僕が寝る前に様子を見て電気を消して下さいって」
繋「電気消したら怖くて寝れないってか?ガキかアイツは」
コーチの言葉に笑いながら、先生がドアをそっと開ける。
武「よく、眠っているようですね···おや?」
「な、なにか?」
ドアから中を覗いた先生が、妙に微笑ましく笑ったと思ったら、俺に小さく手招きをする。
武「澤村君、城戸さんをちょっとだけですよ?」
言われるままに俺は中を覗き、その背後からコーチまでも顔を覗かせる。
繋「あ?何やってんだアイツ」
見てみれば、昼間サプライズで渡したジャージを大事そうに抱きかかえながら紡がすぅすぅと寝息を立てていた。
「なんでジャージを···」
武「あれを貰ったことが、余程···嬉しかったんでしょう。澤村君達に手渡された時も、随分と感激していたようですから」
繋「つくづくアイツはお子様だな、まったく」
正直、そこまで喜んでくれるとは思っていなかった。
サイズが分からず清水に頼み、注文をすれば思ったよりサイズが小さくて少し時間がかかるようだと店の人に言われたからと清水から聞いて。
出来るだけ早く渡してあげたい、そんな位にしか思ってなかったのに。
日 ー 最初からずっと仲間ですよね!キャプテン! ー
日向の言葉が頭を過ぎる。
「仲間、なんだよ。ずっと最初から」
繋「あ?なんか言ったか?」
「いえ、別に何も」
俺達と同じ、揃いのジャージ。
それだけでこんな風に喜んでくれる紡が、カワイイな···なんて思ってしまう。
本人には到底言えないセリフだな、これは。
スガはサラッと言いそうだけど。
おやすみ、紡。
明かりを小さくする先生の後から、そっと胸の奥で呟いた。
これからも、明日からも、ずっと俺達の仲間だからな。
よろしくな、マネージャー。
···頼りにしてるから。
もうひとつ呟いて、ドアをそっと閉めた。