第5章 君の隣
向こうの強烈なスパイクにこっちのレシーブが乱れた。コートの外に流れたボールを及川が追った。それが、十年前、烏野に敗れたあの試合を思い出させた。今度は決める…!
及川のコートの外からの超ロングパスに完璧に合ったタイミング、助走、踏み込み、位置、申し分ねえ。
「ハジメー!」
観客席の中から、月菜の声が聞こえた気がした。
強く打ち付けたボールは、ブロックを掠め、相手チームのコートに打ち付けられた。
「しゃあ!」
湧き上がる歓声、チームメイトが声を上げて俺にしがみついてきた。
「岩ちゃん…!」
コートの外から戻ってきた及川と拳を交わした。
ゲームカウント3-2。世界バレー決勝、日本初優勝という形で幕を閉じた。
観客席へ挨拶へ向かうと、そこには会いたくて堪らなかった月菜の姿があった。会うのは、十年前、空港で別れたそれっきり。お互いに連絡先を知ってはいたが、メールや電話をする事もなく、十年という月日が流れた。
「月菜!十年も待たせて悪かった!好きだ!俺と結婚してくれ!」
突然のプロポーズに、周囲からどっと歓声が湧き上がった。
「はい…!」
涙を流しながら頷く月菜に手を伸ばした。観客席からあの日、塀の上で降りれなくかった月菜を抱きとめた時と同じように、観客席から飛び降りてきた月菜を抱きとめた。やっと俺は月菜に触れる事が許された。
「もう誰にも文句は言わせねえ。ぜってー幸せにする。」