第5章 君の隣
米国人気シンガーLunaと、日本のプロバレーボール選手となった俺。世界バレー決勝後のプロポーズは、両国で日本優勝の記事と同じ位大きく取り上げられた。試合後のインタビューで、偉そうに二人の関係を後押しした俺の存在が大きかっただとかなんだとか言っていた及川のあの腹立たしい顔は今でも忘れられない。が、インタビュー終了後、自分の事のように俺達の結婚を喜び涙を流す及川を殴る気にはなれず、柄にもなく、お互いの肩を叩きあった。
「好き勝手色々書かれてんな。」
新聞に目を通し乍そう呟くと、月菜は笑った。
「そりゃあ、ハジメがあんなプロポーズするんだから、仕方ないでしょ。」
十年越しの告白、十年前の日本での生放送の音楽番組でのLunaの告白の真意、留学中の秘密の恋などと妙な見出しのついたそれらは、どれも懐かしいものだった。それは過去のものだからいいとして、連日、ニュースでは俺のプロポーズ時の映像が何度となく放送された。後悔はしてねえが、こうも毎日のように放送されると、居た堪れない気持ちになる。
当時を知る友人達からのお祝いのメッセージや電話もひっきりなしにくる。
「なんかまだ実感わかねえな。」
「一緒に住んでるのに?」
「住んでるも何もお前が勝手に押し掛けてきたんだろーが。」
「ハジメつめたーい。ハジメがあんな熱烈なプロポーズしてくるからアメリカにいられなくなったんじゃない。」
「OKした事後悔してんのか?」
「してない!」
「ならグダグダ言うんじゃねーよ。ホントお前、及川とそっくりだな。」
それを聞いて月菜は顔色を変えた。
「…それって、つまりハジメはトオルが好きって事?」
「何でそうなんだよ。」
「私を好きって事は、私とトオルが似てるなら、ハジメはトオルが好きって事でしょ!?」
「似てるってだけで、俺が好きなのは月菜だけだ。…って、何、顔赤くしてんだよ。お前だって散々言ってたろ?」
「言うのと言われるのじゃ違うの!」
照れた様子の月菜が珍しくかった事、また、その様子が可愛くて、つい意地悪をしたくなった。