第5章 君の隣
あれから十年という月日が流れた。
あの空港での件はテレビや新聞でも取り上げられたが、Lunaの熱狂的ファン空港で大暴れみたいな感じで大した騒ぎにはならなかった。俺自身が思っていた以上に問題にならなかったのは不幸中の幸いであったが、あの日学校を無断で抜け出し、空港で問題を起こした俺は空港では勿論、学校でも家でも馬鹿みてえに怒られた。大人になった今、あの時の事を思い返すと、若さってのは恐ろしいもんだと痛感させられる。その後、事情を知った及川達にはよくやった、それでこそ岩ちゃんだと褒められたのを昨日のように思い出す。
「岩ちゃん、まさかバテたりしてないよね?」
「ったりめえだろうが!誰に向かって言ってんだボケ!」
世界バレー決勝。ゲームカウント2-2。ファイナルセット。向こうのマッチポイント。
やっとここまで来たんだ。こんな所で終わってたまっかよ…!
「…っし!行くぞ!」
「ちょっと岩ちゃん、それ俺の台詞だから!」
ボールを落とせば終わりというこの場面、なのにいつに無く落ち着いていて、神経が研ぎ澄まされてるようなこの感じ。この最終局面にきて、いつもより見える。ブロックも、相手選手の動きも、ボールも。
なんとかマッチポイントを凌ぎはしたが、ブレイクしない事には向こうに半歩リードを許している状態のままだ。マッチポイントを凌いでは再び向こうのマッチポイントとと、試合の展開は硬直状態。及川のツーアタックで漸くこのセット、初めてリードした。このチャンス、逃してたまるかよ…!