第4章 同じ土俵
急な進路変更に担任も驚いてはいたが、岩泉なら大丈夫だ、頑張れと肩を叩かれた。
それからは気持ちが軽くなり、引退してから無理に勉強に打ち込んでいた節があったが、今は自分のやりたい事が明確になった為、真っ直ぐに気持ちが勉強へと向いた。そんな俺を見て、月菜はハジメだけ特別だよ、なんて言って、よく歌を歌ってくれた。その歌声に励まされもしたが、今すぐに月菜を抱き締めて気持ちを伝えたいという衝動にも駆られた。情けない話だが、今の俺が月菜に手を伸ばした所で、それはきっと束の間のものでしかない。本気で月菜を想うなら、月菜と同じ土俵に上がらなきゃいけねえ。万が一今、月菜とそういう関係になったとしても、メディアが面白おかしく騒ぎ立て、月菜が培ってきた〝Luna〟のイメージを壊しかねない。それに、そうなった時、追い回されるのは俺じゃなく月菜だ。そうならない為にも、俺には時間が必要だった。
「ねえ、ハジメ。私、来週アメリカに帰るんだ。」
「…そうだな。」
「もう聞き飽きたって思うかもしれないけど、聞いて。好き。私、ハジメが好き。」
月菜はいつも真っ直ぐ気持ちを伝えてくれていた。それを俺は最初は迷惑だと感じ、月菜を邪険してた。でも今は違う。俺も月菜が好きだ。けど、今の俺じゃ駄目だ。
「…ごめんね、ハジメ。ハジメが私の事そういう対象で見れないって分かってたんだけど、最後にもう一回だけ、ちゃんと伝えておきたくて…。」
「悪い、月菜。」
「謝らないでよ!私が勝手に好きになって、好きって言いたくなったから言っただけなんだから!」
いつも通り、ヘラヘラとした笑みを浮かべ、俺の肩を叩いた月菜の目から涙が零れた。